将基面 貴巳『愛国心をどう考えるか』「ほんとうに,それが,当然なのか,と問うこと」

将基面 貴巳 「愛国心をどう考えるか」
立憲デモクラシー連続講座 第Ⅳ期 第5回 2019/12/06(金)

将基面 貴巳 政治思想史
日本語の著書
『 言論抑圧 矢内原事件の構図中公新書
『 愛国の構造 』岩波書店
『 日本国民のための愛国の教科書 』百万年書房
『 ヨーロッパ政治思想の誕生 』名古屋大学出版会
など

オタゴ大学
University of Otago
Te Whare Wānanga o Otāgo(マオリ語)
1869年創立 ニュージーランド最古の国立大学
Dunedin NewZealand

将基面貴巳『言論抑圧』 .JPG

レジュメと個人的なメモ(ピンク色の文字の部分)

将基面 貴巳 「愛国心をどう考えるか」


愛国心をどう考えるか


national identity とは何か。

最近の出来事:新天皇の「即位の礼」に際して「まるで平安絵巻」と称揚する人々。あいちトリエンナーレについての河村たかし名古屋市長の発言「日本国民の心を踏みにじる行為」。「愛国心というのか、日本を愛する感情をつくらないといけない。その感情をつくれば、より良い試合ができる(産経ニュース 2016.1.1 17:00 ラグビーWC日本代表キャプテンのリーチ・マイケル氏と安倍首相との対談)



感情としての愛国心

・ 陸 羯南(くが かつなん)「国民的自負心」「国民自尊の感情」
・ 「日本人でよかった」?
・ 田村 直臣『日本の花嫁』事件(1893)

陸羯南:ジャーナリスト。1857年(安政4)― 1907年(明治40)。新聞『日本』発行停止処分を受ける
田村直臣:無教会キリスト者。1858年(安政5)― 1934年(昭和9)。著書『日本の花嫁』の発禁。男女同権論により,田村は1894年(明治27)牧師を免職されるが,1926年日本キリスト教会への復帰



通俗的愛国心をどう考えるか

・ 「日本人であるなら日本を愛するのが当然だし、自然だ」
・ 上の主張がはらむ危険性を理解するために、中世ヨーロッパの異端概念を参照する
・ 異端概念を通じて社会的な排除の論理構造を浮き彫りにする

通俗的愛国心を批判的に検討すること


中世ヨーロッパの異端概念

・正統信仰からの逸脱 ・ 近代国家のケースとの比較
1.異教徒    1.外国人
2.背教者    2.外国に帰化した人々
3.異端者    3.非国民、国賊

社会的排除の論理構造を明らかにすること
非国民,国賊,「反日」的日本人



中世ヨーロッパの異端概念

・ 異端者=教会権威によって正統信仰から頑迷固陋に逸脱した人々
・ 「頑迷固陋」=教会権威による正統信仰に関する決定内容が義務的拘束力を有することを承認しないこと

教会権威 ~ 義務的拘束力


中世ヨーロッパの異端概念

・ “ 単なる少数意見 ” と(中世ヨーロッパ的な意味での)“ 異端 ” の違い
 多数派の意見が義務拘束力を持つか否か

同意 → 公的義務 → 社会的義務


「日本人なら日本を愛するのは当然」

・ こうした意見が支配的になれば、義務拘束力を発生する
・ 愛国「当然」論は、日本人が日本を愛さないことを禁止する

表面的には素朴な意見にみえるが,「当然」とすることで公的義務を発生させる


日本を愛するか否かをどう判定するか

・ 現実には、日本政府を批判する人々が「非国民」「反日」だとされる傾向 e.g. 矢内原忠雄
・ 欧米のパトリオティズムの伝統では、権力に対する批判的姿勢こそが
・ 愛国的だという主張が根強い e.g. ダン・ラザーの近著
・「正しかろうと間違っていようと私の国だ( My country , right or wrong )

矢内原忠雄:無教会キリスト者。1893年(明治26)― 1961年(昭和36)。論文「国家の理想」が引き金となり1937年(昭和12)東京帝国大学教授を辞職

 一般に、矢内原事件は、これら戦前・戦中当局による言論抑圧(ことに帝大粛清運動)の一環として、近代日本史の暗黒面を象徴するものとされている。
〔『 言論抑圧 矢内原事件の構図 』p.4 〕

 矢内原にとっての愛国心とは、あるがままの日本を愛することではなく、日本が掲げるべき理想を愛することであった。したがって、現実の日本が、その掲げるべき理想と食い違うときは、現実を批判することこそが愛国心の現れなのだ、と矢内原は考えた
〔『 言論抑圧 矢内原事件の構図 』p.39 〕


自国の愛し方はひとつではない

・ 相反する政治的立場が相互に「自分たちこそが愛国的だ」と言い張る
・ 中世ヨーロッパにおける異端をめぐる論争と相似
=異端であると宣告された人は自分が異端であるとは認めない

土方成美(ひじかた せいび 反マルクス主義派の代表的存在)
蓑田胸喜(みのだ むねき 反共・右翼思想家)


土方と蓑田に共通するのは、国体思想へのコミットメントである。土方も蓑田も、理想は国体にすでに顕現しているという前提に立っている。矢内原の観察したところでは、日本では理想と現実が乖離していたのであるが、国体思想にコミットする限り、そのような乖離はありえないのである。むしろ、日本国民には国体への奉仕、貢献を通じて国体思想の涵養を果たすことができるにすぐない すぎない。いわんや、国体に批判言辞二を弄するなど、もってのほかである。
〔『 言論抑圧 矢内原事件の構図 』p.199 ~ 200 〕

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自国の愛し方はひとつではない

・ 相反する政治的立場が相互に「自分たちこそが愛国的だ」と言い張る
・ 中世ヨーロッパにおける異端をめぐる論争と相似
=異端であると宣告された人は自分が異端であるとは認めない
・ 自分が異端であると認めること=自分がある事柄を誤謬であると知りつつそれを信じること(しかし、それは心理的に不可能)

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なぜ「自分たちこそが正統だ」と言い張るのか

・ 異端宣告する側もされる側も、共に自分たちこそが正統だと信じるから
=どちらの立場もキリスト教信仰を持たねばならない義務があることを暗黙の前提とする
・ 「自分たちこそが愛国的だ」と言い張る対立する陣営は共に「愛国的であること」が義務であることを承認する
=「非国民」であると非難されて「自分こそが愛国的」と言い張ることは相手の土俵で相撲を取るに等しい

異端宣告する側もされる側も,いずれも「キリスト教信仰をもたなければならないこと」を承認している~水かけ論になる

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愛国的であることは義務であってはならない

・ さもなければ、異端としての「非国民」「反日」は存在せざるを得ない

愛国的であることが義務であるという暗黙裡の承認

13
レトリックとしての日本「愛国」当然論

・ 民衆のレトリック(demagoguery)
1.世界を単純に、いい人々(“我々”)と悪い人々(“あいつら”)に二分する
2.真理はいい人々(“我々”)にとって明白
3.異論を唱える悪い人々(“あいつら”)が諸悪の根源

将基面 貴巳「闘うべきはこのレトリックである」

Patricia Roberts-Miller パトリシア・ロバーツ‐ミラー
DEMAGOGUERY AND DEMOCRACY

議論の封殺 = 無条件の同意を求められている状態
ハンナ・アーレント「思考しないことが悪を生む」
「凡庸な悪」


将基面 貴巳「ほんとうに,それが,当然なのか,と問うこと」

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現代において愛国心をどう構想すべきか

・ 現代パトリオリティズム論から:
1.憲法パトリオリティズム
2.環境パトリオリティズム

・ パトリオティズム : パトリア(羅 patria )=祖国

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パトリア=祖国とは何か

・キケロ(古代ローマの哲学者)
1.自然的祖国
2.市民的祖国
・ 市民的祖国 > 自然的祖国

1.生まれ故郷
2.法的に市民権を獲得した故郷 ~ たとえばキケロは共和制ローマに自分の生命を犠牲にする価値があると


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ふたつの「祖国」概念

・ 共和主義的「祖国」:自由や平等などの政治的価値とそれを実現する政治制度
・ ナショナリズム的「祖国」:ネイション(国民)の文化、歴史、言語、国土などを含む
・ 広義のナショナリズム:ネイション(国民)についての言説
ナティオ(羅 natio )=同郷人団体
・ 祖国とは何か

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憲法パトリオティズム

・ 愛国的忠誠心の対象(「祖国」): リベラル・デモクラシーの政治制度を支える規範や価値、諸手続き
・「常に未完成」「現在進行形のプロジェクト」
・ 愛国的忠誠心の対象からナショナルな文化を削ぎ落とす

民主的な政治文化を維持し,しかもそれを常に批判的に検討する

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環境パトリオティズム

・ ある国の偉大さはその国の自然環境の状態によって定義されるという信念
・ 自然環境は国境を超えて連続的
・ 地球のすべてが「祖国」たりえる

19
結論

・ 現時点において私たちの「祖国」をどのように構想するか
・ 愛国「当然」論の危険:思考停止の呼びかけを警戒する必要

以下は,質疑応答より

15~17世紀にはキリスト教会主導による大規模な魔女狩りが,18世紀になぜ衰退したのか ~ ルネ・デカルトの懐疑主義
社会を正気に保つために懐疑的であること

チャールズ・テイラー「尊厳と名誉は違う」「自尊心 dignity こそが,ある人の identity を基礎づける」「尊厳は,誰もが平等に持たなければいけない。それに対して名誉は,ヒエラルヒー的な階層・秩序で,ある特定の人々だけが持つものであって,全員が持つものではない」

自分が自分であるという個人的な identity もあるが,社会的なidentity = 経済人としての identity ,職業人としてのidentity,あるいは日本人であるというnational identity
David Goodhart (英国のジャーナリスト)BERXIT 社会における二極分解
 どこでも派 Anywheres 教育レヴェル,平均収入が高く,コスモポリタンとしてEU内でどこにでも住むことができる
どこか派 Somewheres 教育水準,平均収入がやや低く,どこかに根差していないと生きていけない。経済的 identity 社会的 identity が揺るがされているから national identity を肥大させることによってバランスを取る=自尊心を高めようとする,尊厳の感覚を保とうとするのではないかと考えられる
national identity ~ 金持ちも貧乏人も皆イギリスの国民であるという点で平等

トランプ政権下のアメリカ
日本のネトウヨにもそういう部分があるのではないか

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◇ 参考
REUTERS

2017年4月4日 / 10:41 / 3年前
https://jp.reuters.com/article/column-brexit-flawed-compass-idJPKBN17603Z
コラム:離脱後の英国二分する「不完全な羅針盤」
Peter Thal Larsen

◇ 動画
https://www.youtube.com/watch?v=SW37nTl2Y5w
20191206 UPLAN 将基面貴巳「愛国心をどう考えるか」

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