安倍総理も菅官房長官も,まったく大人げない

阿部 謹也
「 歴史は闘う者にしかその姿を現さない 」


0) 昨夜 TBSラジオ Session-22 を聞いた
 「特定秘密法」で,政権批判ができないほど報道の自律性が損なわれているという大問題については,別の機会にすることにして,今日は,いつも 曖昧なまま使われている 「個人」 という言葉を,考えてみます。

 国際社会,また国連で使われる 「個人の立場」 ということが,日本ではまったく誤解されたまま報道にも使われていたりもします。
 また,国連人権理事会・特別報告者 ジョセフ ・ ケナタッチ氏の 安倍総理宛ての共謀罪についての質問が含まれる書簡について,安倍総理や菅官房長官が 「抗議した」 とか,あたかも単なる私人として好き勝手に質問の手紙を書いたような意味不明な発言を,何の批判もなく報道するところまであります。

 しかも,28日NHK日曜討論では,共謀罪法案賛成の立場で出演した 木村圭二郎・弁護士は,味噌糞の言い分でまぜっかえし,誤解を助長する態度に終始していました。 その発言は,以下です。


木村圭二郎・弁護士
「 書簡には重大な問題があり,誤訳が入っている。 「結合の基礎としての共同目的」 が入っていない。 彼は間違った英語を元にアジュディケーション adjudication (裁定) を出してしまっている。 しかも彼の国 マルタでは,日本よりもはるかに広い結社罪が規定されている。 まずは自分の国のことを問題にすべきだ。

 この太字で強調したところを見て,ビックリしませんか。
 印象操作とは,こういうものでしょうね。 木村弁護士は,国連活動をするのなら,自国の問題がひとつもない状態でやれ,と言うんです。 あらあら
 私は心底驚きました。 たとえて言えば,酒好きの医者がアルコール依存症について研究するな,治療もするな,みたいな ヤケクソさに。
 共謀罪法案が国連の条約に加盟するのに必要だと声高に賛成するのなら,立脚すべきは国際感覚と国連の本来の趣旨じゃありませんか。

 なお,昨夜5月31日のTBSラジオ Session-22 では,阿部浩己教授 ( 神奈川大学法科大学院) が生出演していて,国連の人権保障のシステムの歴史や問題点などについて,私は理解を深めることもできました。


https://www.tbsradio.jp/151775
【音声配信】「日本政府は制度の趣旨を理解していない!? 国連人権理事会・特別報告者とは何なのか?」 阿部浩己 × 荻上チキ ▼ 5月31日(水)OA分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」 22時~)

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1) 個人 individual と 私人 private と
 日常生活では,「個人の立場で」 と言うとき 「私人の立場で」 という狭義に使われたり,または,どちらもあまり差異を意識せずに使われたりすることがほとんどです。 個人的な意見とか,個人の立場とか,私人としてとか,それほど厳密に使い分けられてはいません。
 国語の辞書にも,それほど親切な説明は,ありません。

 まず,私人とは,プライヴェイト・シティズン private citizen 。
 すなわち公的な立場を離れたときの個人,また公職には就いていない人と限定する,個人をより狭義でしめすときの言葉だと考えます。

 で,個人とは,インディヴィデュアル individual 。
 すなわち,これ以上分けることのできない個体。 それは集団や社会の対義語としての 1人の人間ということを表していることは もちろんありますが,より積極的な 「 社会と対峙する存在としての 」 1人の人間 を表す言葉のわけです。
 現代の西欧社会では,個人 individual が,社会と対峙するという積極的な意味での個人 individual であるとする共通認識があり,そこで 私人 private とは ちょっと違って使われているはずです。

 日本では,個人ということを考えるとき,明治時代以降の急激な近代化も,世界が一瞬でつながる www の日常性も,明確な区分を得意とはしない日本語の特性,文化も,そして ティピカルでもある天皇制の問題をも引きつける歴史意識を繙く(ひもとく)必要がありますが。
 閑話休題。

2) 国連人権委員会特別報告者の「個人の立場」とは,公正・中立の立場を意味している
 そこで,今回国連人権委員会の言った「個人の立場」とは,総会の立場ではない,という意味ではありません。
 それは,国連活動のなかで,とりわけ特定の国家や,特定の政治団体や,特定の利益集団からはまったく離れた,実に公正・中立の立場であることを指し示していますね。
 国連の総意を形成するのに必要な情報収集のために,共謀罪法案に対する質問状を安倍総理宛てに送ってきたことは,人権委員会が必要だと考える当然の任務を果たしただけのことです。

 阿部教授も,昨夜のラジオでやんわりとおっしゃっていましたが 「普通のこと」 に 「政府の対応はあまりに大人げない」。

3) 非公開であれば,根回し,裏取引きだけでなく,恫喝も可能
 その質問状を 「一方的に送ってきて,公開している」 と,うっかり口を滑らせている安倍総理も菅官房長官も,恥を知ればいい。
 何か事前の根回しとか,裏取引きを期待していたのでしょうか。

 一国の人権状況についての質問を 「 こっそり内容を事前に知らせて,秘密裏にしている 」 なんてことがあれば,ほんとうはかなり恐ろしい事態なんです。
 「何かヤバそうだから,早く言い訳を考えておけ」 とか 「お前たちはヤバ過ぎだから,それをやめないと粛清するぞ」 みたいな恫喝まがいのことが,可能になりますものね。
 裏取引きや恫喝が可能な状態は,公開されていないから起きるわけで,質問をオープンにする,公開することの重要性も理解できていないのが,日本の現在の内閣だと国際社会にバレちゃったことでしょうね。

4) そもそも討論自体を軽視している安倍総理
 質問の事前通告が一般化している日本の国会審議では,裏取引きとか,根回しとか,日々あったりもするんでしょう。
 お上手な答弁を官僚が用意して,中身を知らないままの議員がその原稿を読みあげているだけなんてことは,いつものことです。
 そんなものに慣れ切っている政治屋だけが,はびこっては,困ります。
 それは,精確性を期するために用意しておくという重要性はあるでしょうが,事前通告されていないから答えない,答えられないのだとしたら,せめて時間をかけて次回に答弁するくらいのことを,国会ではやってもらいたいですよ。

 いつだったか,割と最近のこと 「 何時間話しても私の言っていることが分からないならムダですね 」 と,安倍総理が国会で言っていたから,そもそもこういう話も 官邸話法にとっては 「XXの耳に念仏」 なんでしょうがね。


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阿部 謹也 『 刑吏の社会史 中世ヨーロッパの庶民生活
画像

中公新書 1993年 3月 30日18版
(初版は1978年10月25日)
買った時 定価 680円(本体 660円+税3%)

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