樋口陽一 手を触れてはいけない価値を書いてあるものが憲法

緊急鼎談 樋口陽一 小林 節 小沢一郎 憲法を語る (6/7)
2015年4月20日(月) 16:00~18:00
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https://www.youtube.com/watch?v=d6PzKinupYo&app=desktop
01:31:00~01:50:53/02:00:46
樋口 陽一 東北大学・東京大学名誉教授
小林 節 慶應義塾大学名誉教授
小沢 一郎 生活の党と山本太郎となかまたち・代表
司会 堀 茂樹 慶應大学総合政策学部教授


堀 茂樹
 樋口先生。私,別のところで講義などを拝見したときに多くのことを教えていただきましたが,1つポイントとして,自民党の「改憲草案」というのは,個人という概念の無視と言うか,近代において重要な個人というものが,どうなっちゃうのかということを仰っていた。この点を。


樋口 陽一
 そのとおりです。私はよく学生への講義でも言っておりました。
 日本国憲法で一番肝心な条文を1つだけ言えと言われたら,第13条 「すべて国民は,個人として尊重される」
 もちろん外国人は煮て食べても焼いて食べてもいいというような話しは別として<笑。会場・笑> 憲法というのは,取りあえず国民。
 国家の中での国民と権力(その)間の関係のルールですからね。
 すべて国民は,個人として尊重される。
 これは,一番肝心な点です。

 ドイツの(憲法は)最初,西ドイツの憲法でしたよね。西ドイツの憲法の基本法という名前の憲法の第1条は,国民主権じゃないんです。
 人間の尊厳なんです。
 この,人間の尊厳という言葉は,ヨーロッパ連合の基本ルールにも冒頭に取り入れられている。
 ヨーロッパ諸国の実際の合同のシステムの中でも,基本概念になっています。
 つまり,国民主権だったんですから,ナチスが出てきたのは。決して,いきなりクーデターしたわけじゃないんです。
 国民主権の選挙で,ああいうことになった。
 だから国民主権はもちろん大事な原則であり続けなくちゃいけないけれども,国民主権なら何がどうなっても良いのかじゃなくて,人間の尊厳という,手を触れてはいけない価値がある。このことは立憲のほうですね。それが憲法哲学。

 ところが,今話題になっている「(自民)改正案」では「すべて国民は,人として尊重される」ことになっています。
 個人という言葉を,敢えて削っている。

 普通,法律用語で(「人」という言葉が使われるのは)例えば刑法では「人を殺したる者は懲役何年,もしくは死刑」日本の今の刑法に書いてありますね。
 (ここでは)「人」という言葉が出てきますけれども,国民と国家の間に関連する憲法のレヴェルで,法律学者はこれを実定法と言うんですけれども,実定憲法に「人」という言葉が出てくるとは思わなかった。

 で,個人がいやなら,人間という言葉が出てきそうですけど,それはドイツの第1条であって,するとそっちの方に行っちゃあ,それも困ると。
 人間の尊厳でも困るということで「人」になったんだろうと。これは憶測です。
 しかし,とにかく 「人」になった。

 しかもそれが決して軽い意味での言葉の変更でないことは,先ほどからも話題になっております憲法の前文を,全部御破算にして,全部差し替えです。
 Q&Aという詳細な印刷物が同時に出されておりますけれどもね。 その説明を見ますと,今の(日本国憲法)前文は 人類普遍の原理がキーワードになっておりますから,天賦人権振りでよろしくないというので,前文はバッサリ差し替える。

 御三方とも慶應のご出身ですよね。
 福沢諭吉はダメだと言う。<会場・笑>「天は人の上に人を造らず。人の下に人を造らず」は,いけない という,驚くべき(ロジックだ)。
 もちろん(自民案)前文で福沢諭吉のことをいけないと言ってるわけじゃないですよ。<会場・笑>
 そういうことになるロジックになっています。

 要するに,人類普遍。開かれた,それこそ国際協調主義の大前提になる開かれた日本というのが,どうも排除する。その代わりに,いやが上にも「日本の日本らしさ」と書いた人が考えたであろう言葉が出てきます。
 一体,日本らしさとは何のか。西欧人が見るとハラキリも日本の文化。<会場・笑> しかし源氏物語も日本の文化。 一体どっちが日本なのかということですよね。例を挙げれば切りがありません。
 しかし,文章書いた人は「日本らしさ」で自分たちの思いをそこに籠めたんでしょう。

 実は,小さなエピソードがありまして,ある外国の雑誌記者にインタヴュ受けましたときにね。「日本らしさ」を盛り込もうとした部分を翻訳してあげたんです。
 その中に出てきまね,「国,郷土,ふるさと,家族」これはそれ自体は非常に良い言葉ですよね。私は,国好きですし,郷土好きですし,家族も好きです。しかしそれが,憲法というテキストの中で改めて大写しになることの意味を,その記者は女性の記者でしたけれども,すごく敏感に感じておりました。
 いち早くヒトラーに降参してヒトラーに従属する政権を作ったヴィシー政権< Régime de Vichy 1940―1944年>というのがありますね。Philippe Pétain ペタン元帥という人が憲法を作り変えたわけです。
 自由・平等・博愛ないし友愛というフランス革命以来の3点セットに対して,その(変えられた)憲法は「諸国,家族,労働」という3点セット。
 その記者はフランスの人でしたが,「何だ,これは。そうすると,これは私の国フランスが恥としているあの時代の,ヴィシー政権の憲法を連想するよ」 と言われました。

 ですから,言葉自体としては決して悪くない言葉であっても,ある歴史的な背景を持った文脈の中で,しかも憲法に書き込むことは,どういう反応を世界中に(与えるのか)。ものを多少でも知っている人たちに与えるショックということに思いがもちろん及んでいない「草案」だということですね。

 ということで,人類普遍はいけないから,「日本独自」。
 しかし他方ですね,他方,こういう点もあります。
 この「草案」は色んな条文で一応,権利,自由を掲げます。掲げますけれども,注意深く,制限する条項をセットにして くっ付けています。

 ところが唯一,現在の憲法ではむしろ制限する論理に意味を持つ条文。憲法22条 1項。 居住・移転,職業選択の自由。
 これは明治憲法以来の理解で,これは経済活動の自由を広くカヴァーするんだ。もう 1つ,財産権<第29条>という条文ももちろんありますけれどね。
 22条,そういう経済活動の自由という条文の基本条文と扱われてきました。
 この条文で,公共の福祉の制約に服するという意味のことが書いてあるんです。
 今の憲法では,経済活動は公共の福祉で制限される。

 ところが,他の条文ではこれでもか,これでもかというふうに権利の制約について書いてある「(自民)草案」の22条だけは「自由を有する」という言葉で言い切りになっています。
 これは,バッサリ制約が切れているんです。これも,良く考えられた上でのことだと思います。
 競争至上主義。企業が一番活動し易い国にするという,これは現政権が自らのメリットとして強調している点ですね。これがストレートに反映しています。

 これは,矛盾しているようだ。一方では「日本独特」を言いながら,他方では国境を広げ,お金と経済活動の自由自在な流通を図ろうというのは,論理的には矛盾しますけれども,実は,競争によって破綻していく世の中への癒し。表面だけに付ける薬。 <会場・響動めく> 病状はますます悪化するだろうということですね。
 私はそういうふうに読み取っています。

堀 茂樹
 なるほど。有り難うございました。
 奇しくも,冒頭,私,今々のアクチュアルなニュースをあまり引用しないでいきたいと言いましたけれども,船田元さんの発言で「前文に,日本の国柄を反映させたい」と「日本固有の文化が優れていることを絶対に載せたい」と強調したそうです。ごく最近のことですね。こういう文化主義的な行き方というのが,本来の意味のリベラリズムと言いますか自由主義,立憲主義に繋がる考え方と非常に近いはずなんですけれども,そういうふうに言っております。
 それでは,だんだんと時間が押してまいりました。本当に重要な論点も幾つか出していただいて我々が考える参考になると思っておりますけれども,最後に予定どおり,5分間ずつ御三方にご発言をいただこうと。それをもって結語にしたいと思うんですが,まず小沢代表。
安倍さんは「積極的平和主義」をスローガンにしている。しかも,これはもともと小沢さんが言っていたことだったというのがあるんですね。<小沢氏・笑。会場・笑>
 小沢さんの国連への貢献という考え方とか,日本が一国平和主義で閉じ籠っては無責任だという考え方とか,そういうものが半ばハイジャックされているんではないかと私などは思うんですけれど。そのことも踏まえて,短い間でしたけど今日の討論を踏まえて,どんなふうにお考えかをお願いいたします。

小沢 一郎
 はい。今日は樋口先生,小林先生のお話し聞いて,私も大変考え及ばなかったところもお話し伺いまして本当に良かったと思ってますが,いずれにしても憲法は,私たち国民の生活を守りそして,そして我々国民の集合体である社会の将来の安定を図っていくための,お互いに決めたルールでございますので,最高の規範でありますので,これは,私は,その成立過程がどうだとかあるいは何だとかという議論,また樋口先生が仰ったように(自民改憲案では)色んな「郷土愛」だいや何だかんだって言葉を出しておりますけれども,とにかく,政府の,安倍さんの話しは憲法問題だけじゃなくしてですね,言葉そのものだけ取り上げりゃあ,何も悪いことではないんですね。ないんですけれども,その背景の考え方,あるいは,やってる中身等々は,あらゆる施策において非常に民主主義に反する。あるいは歴史に逆行する考え方で政治の運営が為されているというふうに,私は思っております。

 したがいまして,我々も不甲斐ないのですけれども,今,堀先生が仰った「積極的平和主義」というのもですね,言葉そのものは僕も言いましたし,何も悪いことじゃないんですが,そういう言葉でもって,国民の目を耳を誤魔化しながら,いわゆる非常に今申し上げたような考え方で行なっていると。

 私は,本当にこうしたいと,こういう社会を作りたいんだと,やっぱり大国日本,戦前に五大強国と言われた日本,そのイメージの中で世界に冠たる日本を作るんだと,そういう思いならばですね,はっきりとしたヴィジョンをきちっと示した上で国民との議論をすべきだと思います。
 トップ・リーダーが言葉面だけで誤魔化して中身を隠しながら自分の意図を達成しようというやり方は,私はいけないと。 厳に慎まなければならないと,そう思っておりまして <会場・大きな拍手>これを見定める,見破るのは主権者たる国民皆さんでございますので,ぜひそういう意識で,多くの国民皆さんが政治に目を向けていただきたいと,そのように思っております。以上です。<会場・大きな拍手> 

堀 茂樹
 今度は小林節先生,お願いします。


小林 節
 「積極的平和主義」という言葉(を安倍総理が使うとき)の,要するに価値観を共有する国と一緒になって,そうでない国を軍事力で張り倒す。敵がいなくなって平和になる。
これは織田信長の天下布武<その政治思想を表したとされる,信長の使用した印章の印文>と同じですよね。「敵は張り倒して平和にするぞ」って言ってくれたほうが,正直ですよね。

 最近,福島瑞穂さんが被害に遭ってましたけれども,戦争法って言ったら,彼らは「平和協力法」 とか 「重要ナンタラ事態ナントカ法」 <重要影響事態安全確保法>とか意味不明なことを言って,要するに,戦後70年間我々がしたことのない海外で戦争するための手続き法を作ろうとしている。
 だから紛れもなく戦争法なんですよ。
 
 福島さんは真実を言ったんですね。
 それに対して安倍さんが言ったことは「レッテル貼りをして話を矮小化する。許せません」って言ってるんですね。
 これ,正気の沙汰じゃないですよ。
 <会場・笑い響動めく>
 この安倍さんに,誰も政界の人々がものが言えない。とくに自民党の議員。
 自民党議員は私に「小林先生,有り難う,頑張って」とか言うから,頑張るのはあなたたちでしょ。<会場・笑>
 そういう状態。これ本当に政治の劣化ですよね。

 こちらも歳を取ってきたから,政治家と出会って全然緊張感なくなっちゃってるんですけれども,<会場・笑>小沢先生とだけは 未だに緊張するんです。今日ドキドキしながら控室に入って,ドキドキしてました。<会場・笑>
 まだお元気ですけど,政界最長老なんですよね。この経験と智慧と迫力が活きるような状況にするためには,どうしたら良いか。<会場・大きな拍手>

 安倍さんは,その戦争と平和の話しもそうですけれども,矢鱈めったら 「丁寧に説明,丁寧に説明」 とは言うけど, 一度も丁寧に説明してないんですよ。<会場・響動めく>
 分かりますでしょ。一度も,ないんです。 だから,どんどん どんどん,論難を押しつけてあげなきゃ いけない。

 選挙制度のお蔭で,たった3割の票で7割の議席を獲って威張ってるだけですから。
 1つの方法は,何とか彼らの支持率を30%以下に,下げることですね。
 それからもう1つは,反対する側がひとつに纏まって,3割以上のかたまりを取って,7割の議席を取り返す。
 <会場・大きな拍手>
 これ単純明快なんですよ。
 政治論争があのレヴェルに低いと,もう議論するよりも彼らに消えてもらえば,話しはケリがつくんです。<会場・笑>
 これはつまり我々国民たちの責任ですので,私も頑張ります。皆さんも<○○○ 拍手で数秒不明>頑張ってください。
<会場・大きい拍手>

堀 茂樹
 最後に樋口先生,お願いします。


< 続く >
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日本国憲法
 第三章 国民の権利及び義務
第一三条 【 個人の尊重と公共の福祉 】

 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第二二条【 居住・移転及び職業選択の自由、外国移住及び国籍離脱の自由 】
 何人(なんぴと)も、公共の福祉に反しない限り、居住・移転及び職業選択の自由を有する。
② 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。


自民改憲草案
第三章 国民の権利及び義務
(人としての尊重等)第十三条
  全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。

(居住、移転及び職業選択等の自由等) 第二十二条
 何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2  全て国民は、外国に移住し、又は国籍を離脱する
自由を有する。


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