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zoom RSS 資産集中の変化の重要な部分を説明する「ランダムショックモデル」

<<   作成日時 : 2015/02/05 16:16   >>

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Eテレ 2015年01月30日(金)放送分 (3/3)
トマ・ピケティ 『21世紀の資本』 第4回 「強まる資産集中
〜所得データが語る格差の実態〜」


❏ 理論「資産蓄積のメカニズム」
 理論の問題に移る。理論とは,資産形成のメカニズムの読解 つまり資産格差を読解することだ。
 資産の蓄積 wealth accumulation や,分配 distribution と不平等 inequality の問題について,従来,研究者の間でどのように分析されてきたのか。この問題について究明する。


資産の不平等 > 所得の不平等
 分析から分かる最も重要な事実は,資産の不平等は常に所得の不平等よりも,ずっと大きいということだ。


≪世界全体の資産蓄積 理論の4モデル≫
1.予備的貯蓄モデル
2.ライフサイクルモデル
3.王朝モデル
4.ランダムショックモデル

1.予備的貯蓄モデル
 将来の予測できない出費に備えるために貯蓄を行なう


 資産の不平等は 常に所得の不平等よりも,ずっと大きいというこの事実は,経済学で予備的貯蓄モデルprecautionary-saving model と呼んでいるものでは説明がつかない。

 予備的貯蓄モデルでは,資産の不平等は,労働所得の不平等より小さくなる。
 予備的貯蓄モデルとは,人々が資産を蓄積する場合,最も初歩的な形態で,将来の予想できない出費に備えるために貯蓄を行なうというものだ
 例えばあなたは明日失業するかも知れない。あるいは,今はボーナスが貰えるが来年は分からない。収入が不安定になる可能性もある。
 このように,労働所得というのは毎年同じではないし,失業の可能性さえもある。失業手当も僅かで,蓄えもなければ,それに備えてお金を貯めなければならない。出費を減らすことも借金することも容易ではないので,そうしたときのために貯蓄が必要だ。これが予備的貯蓄モデルだ。

 例えば,毎年のように所得の変動に晒されるとする。そして皆が衝撃に備えるクッションとしての予備的貯蓄を同じだけ持つと,資産の不平等はなくなるが,労働所得の不平等は大きいままだ,と言うものだ。

 これは,明らかに現実とは違っている。
 実際は逆に,資産の不平等のほうが,労働所得の不平等よりはるかに大きい。だからと言って,予備的貯蓄というものが まったくないわけではないが,資産蓄積を目的とする形態とは言えない。

2.ライフサイクルモデル
 人は退職時までに定年後の生活に必要な金額を貯金し,それを使い果たして亡くなる
 資産所得比率(国民所得に対する資産の割合)は所得の水準よりは,人口や寿命に左右される


 これは,予備的貯蓄モデルとは少し違って,人は老後のために貯蓄するというモデルだ。予備的貯蓄モデルは予期せぬショックが起こる可能性を想定しているが,ライフサイクルモデルは,はっきりと分かっている定年後の暮らしをどうするか。そのためにいくら貯蓄する必要があるかというモデルだ。

フランコ・モディリアーニ(1918〜2003)
画像


 このモデルを開発したのはモディリアーニというノーベル賞受賞した経済学者で,この理論はモディリアーニの三角形とも呼ばれる。 これは資産蓄積の形を三角形で表したものだ。

モディリアーニの三角形 個人
縦軸:資産蓄積の額  横軸:時間

画像


 大人になって働き始めて退職するまでお金を貯め続けるとする。 資産は年齢とともに増えて60歳や65歳の退職年齢の際にピークとなり,その後毎年それを取り崩して使い,資産は死ぬまでにゼロになる。

 例えば資産とは,老後に食べるために作ったアップル・パイのようなものだ。若いときにはリンゴを育て,歳をとってからはそれをパイにして食べる。可笑しな喩えに聞こえるかもしれないが,資産蓄積の仕組みを理解するには役に立つ。

 このモデルではトータルの資産の蓄積はどうなるか。
 経済全体の富(資産)の蓄積は,下図の黄色の三角形の面積になる。この面積の計算は簡単だ。

モディリアーニの三角形 経済全体
縦軸:資産蓄積の額  横軸:時間
国民所得に対する総資産の割合(資産所得比率)が定年後の年数の半分になる

画像


 上の図では,1人当たりの資産保有額の平均は三角形の頂点の半分だということになる。
 この場合,資産は働いている間に増えていくが,退職後は減っていく。退職後の年数が長いと,より多く貯蓄する必要が出てくるわけだ。

 ライフサイクルモデルでは,経済全体の資産所得比率は,ちょうど老後の年数つまり退職から死ぬまでの平均年数の半分になるというところが特色(みそ)だ。
 退職後,死ぬまでの期間が10年だとすると,定年を迎えたときに10年分の所得を資産として蓄積しておかなければならない。
 それは,社会全体としては,国民所得の5年分を老後のための年金資産として蓄積することを意味する。

 モディリアーニの理論の素晴らしい点は,個人の単純なライフサイクルモデルを拡張することで,経済全体の資産蓄積の大きな構図を描き出したことだ。老後が20年に延びて,70歳ではなく80歳で死ぬ場合は,経済全体としては10年分の国民所得を資産として蓄積しなければならないことになる。このモデルどおりだと莫大な資産の蓄積が必要になる。

 モディリアーニの三角形は,遺産相続の動機を一切無視して,人は自分の老後の生活だけを考えると,想定している。
 これが教えてくれるのは,単純なライフサイクルモデルによって,どれだけの資産がどれだけの人口の変数から生み出されるのかということだ。

 このモデルで注目すべきは,経済全体の資産所得比率つまり β が所得水準によって決まるのではなく,人口動態の変化つまり人口や年齢構成,そして寿命の伸び率によって決まると主張していることだ。

 これは,重要な点で,モディリアーニ以前の経済学者は,経済発展に伴って所得が高くなれば,それに連れて貯蓄率も増えていくと考えていた。したがって,資産所得比率 β は無制限に増加すると考えたのだ。マルクスもそのように考えていたが,データでは確認できなかった。

 第1次世界大戦以前は十分なデータはなかったが,資産所得比率は大変高い水準にあったことは間違いない。しかし,ひたすら上昇を続けたわけでもなかった。
 その後戦争に伴うショックで資産所得比率は減少した。
 つまり,月500ユーロ(≒6万円)や 1千ユーロ(≒13万円)で暮らす貧しい社会でも 月5千ユーロ(≒66万円)で暮らす豊かな社会でも,人々は老後に必要な分以上は貯蓄しない。所得水準が上がっても,絶対額はともかく,所得に対する貯蓄の割合としては変化がない。
 これがモディリアーニを興奮させた発見であり,重要な論点だと彼は考えた。

(図表)ヨーロッパの資産所得比率 フランス イギリス ドイツ
資本所得比率(β)= 総資産÷国民所得

画像


 モディリアーニの答えは,実際に人々が,資産(富)をライフサイクルに応じて蓄積しているとすれば,金持ちが必要以上に資産(富)を蓄積する理由はないのであるから,問題は,所得水準ではなく,人口や寿命の要素つまり人口動態である,ということだった。

 しかし,このモデルには実は大きな問題があった。
 こうした資産が所得ではなく人口動態に依存する形で蓄積されるというモデルには,実は大きな問題があった
 現実にはそのようなライフサイクルに備えた巨額の資産蓄積は,見当たらないことだ。
 国民所得の5倍もの年金資産を蓄積している国は,どこにもない。

 モディリアーニの論文によると,ライフサイクルモデルを作ったのは 1940年代の末から 50年代だ。その頃は,相続される資産は,とても少なかった時代だ。戦争によって富(資産)が破壊され,若い世代は無一文から人生を始めた。
 ライフサイクルモデルというのは,いわばその時代の産物だ。だから,ライフサイクルモデルでは,相続資産の問題を捉えられないということだ。

 ライフサイクルモデルのもう1つの問題は,それぞれの世代が常に資産ゼロからスタートするので,資産集中が生じる時間がないという問題だ。
 もし,もっと長い時間という考え方を取り入れ,次の世代のことも,さらにそれ以降の世代のことも考慮すると,同じ家族でもゼロから始まるライフサイクルモデルでは見られなかった,より大きな資産集中が起こり得る。

3.王朝モデル
個人は自己のライフサイクルだけでなく,王家のように子孫繁栄を考えて行動する
資産を持つ階級と 持たない階級との闘争


 ライフサイクルモデルとは対照的な王朝モデル。
 このモデルでは決して絶えることのない王族のような生涯を送る。富が尽きるとともに生涯を終えるライフサイクルモデルとは正反対だ。王朝モデルでは,人々は自分の資産を使い果たして死ぬのではなく,次の世代を自分のことのように大切に思って資産を残す。

 王朝モデルでも,巨額の資産を持つ大富豪は,資産を持たない人々に比べて,その富が生み出す所得を得られる。もしも100万ユーロ(≒1億3千万円)の資産があれば,それが5%つまり5万ユーロ(≒665万円)の収益を,賃金の他に生んでくれる。もしも1万ユーロ(≒133万円)しかなければ,賃金以外には5%つまり500ユーロ(≒6万6千円)の追加の所得しかない。
 同じだけ働いても,資産を持つ大富豪の所得は,益々大きくなるというわけだ。

 このように,資産の蓄積過程には,極端な2つのモデルがあるが,現実世界は,王朝モデルとライフサイクルモデルの中間だ。

 純粋な王朝モデルだと,資産蓄積は階級間の争いになる。資産を持つ階級と持たない階級とに固定化されるからだ。
 それに対してライフサイクルモデルでは,資産蓄積は年齢の問題になる。資産を持たない若者と資産を持つ高齢者の争いということだ。若者が年寄りに腹を立てることもあるが若者も時とともに資産を持つようになる。 だから争いと言っても,それほど危険なものではなく,社会の分裂の度合いは低い。 若いときはお金がないけれども,歳をとるとそれなりに豊かになる。皆,同じだ。ライフサイクルモデルは,ある意味では資本蓄積についての予定調和的な見方ということになる。 だから現実は二者択一ではなく,どちらにも分があるということだ。

4.ランダムショックモデル
資産相続を前提とするが,ショック(偶発的な変化)による個別的な浮き沈みも考慮する 
資本収益率 r と 経済成長率 g との差が,不平等に大きく影響する


 さてこれは私がランダムショックモデルと名付けたモデルだ。
 このモデルでは,人々は長い時間軸を持ち 少なくても自分の子どものことまでは気にかける。しかし,王朝モデルと違うのは,あらゆるプロセスに,ショックすなわち変動の要素が付きものだということだ。
 現実の世界では常に様々なランダムショック,予期せぬ変動による資産の移動,浮き沈みが起こり得る。
 まず,人口動態による変動がある。 子どもが沢山いるために資産を分割しなければならない家族もあれば,子どもが1人という家族もある。 親は早く亡くなる場合もあれば,長生きの場合もある。子どもも,そうだ。家族がいつ亡くなるかによっても違う。例えば,3世代にわたって子どもが1人しかいなければ,相続する遺産は大きくなる。逆に子どもが多いと相続資産はその分少なくなる。そうした家族の資産を受け継ぐプロセスには,資産の移動をもたらす様々な変動要素がある。家族によって資産による収益にも差がある。沢山の遺産を残そうとせっせと蓄える家族もあるし,そうでない家族もある。労働生産性も異なる。

 一般的にランダムショックモデルは,こうした変動要素の構造を組み込んで考えるわけだが,これによって,資産規模の異なった人々の間の移動を考慮することが可能になる。
 君たちは今は貧乏でも,ビル・ゲイツのようになれる可能性があるしビル・ゲイツも貧乏になる可能性がある。常に起こり得る。可能性は低いけれど,ないわけではない。

 このランダムショックモデルの重要な発見は,
 資本収益率 r と 経済成長率 g との差が
 少しでも変化すると,
 例えば,2%から3%,あるいは3%から4%になっただけで,
 長期的には大きな変化が生まれる
ということだ。

 このことから,上位10%の資産シェア(占有率)が,60%から80%ないし90%へと増加する理由の説明が付く。
 もちろんこれが唯一の説明というわけではないが,ランダムショックモデルなら,資産集中の変化の重要な部分を説明できる可能性がある。


◇ 関連
http://4472752.at.webry.info/201501/article_14.html
2015/01/14 01:56
平等の拡大:資本主義の基本法則 トマ・ピケティ 『21世紀の資本』 第1回(2/3)
http://4472752.at.webry.info/201501/article_15.html
2015/01/14 20:22
長期にわたる富の所有の不平等 トマ・ピケティ 『 21世紀の資本 』 第1回(3/3)

不平等に大きく影響する資本所得比率。それは,資産総額が国民所得の何年分に相当するかという比率。以下の式であらわされる。

資本所得比率(β)=総資産÷毎年の総所得
 

■ 資本主義の第1基本法則

α=r×β


α 国民所得に占める資本(収益)の割合
r 資本の収益率 (r:return )
β 資本所得比率 (国民所得1年分に対してどれだけの割合か)

例えば
β(資本所得比率)が600%つまり国民所得6年分を資産を持っている
r(資本収益率)が年に5%だとする
α(利潤シェア)=5%×600%=30%

これが意味するのは,国民所得の30%が,資本による収益が占めているということ。極めて重要な法則で,α,β,r の3つが関連している。

■ 資本主義の第2基本法則

β=s/g


β 資本所得比率
s 貯蓄率
g 経済成長率

資本所得比率 β は,貯蓄率 sが高くなるに連れて上昇する。
2倍貯蓄すれば,資産も2倍になるよという,それだけのことだ。しかし,これには経済がどれだけの割合で成長するかということも係わってくる。
もし資産(富)が平等に分配されて,皆がちゃんとした年金資産や不動産,あるいは企業の株などを等しく保有しているような社会であれば,まったく問題はない。
資本所得比率βの上昇は自然なことだし,皆が均等に資産を持つということは悪いことではないから。

問題は,資産(富)の分配が不平等だということ。
例えば老後の年金資産でも,その保有額には大きな格差がある。資産を多く持つ中間層を説明したが,下位層50%は事実上資産(富)がなく,正確に言えばたった5%だ。上位層10%は労働所得のシェアよりも資産のシェアが高い。

70年代以降の世代は相続する資産がなければ,自分で稼ぐ所得だけでパリや東京で家を買うなど,到底できない。厳しい住宅事情は皆も周知していると思うが,よほど稼ぎが良くないと家を買うことは難しい。
今は,家族の資産が重要な時代に舞い戻りつつある。

資本所得比率βの上昇が起こると,不平等はさらに拡大する。

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