銅のはしご

アクセスカウンタ

zoom RSS どれほど所得不平等が大きいと言っても,資産の不平等には遠く及ばない

<<   作成日時 : 2015/02/04 21:46   >>

トラックバック 0 / コメント 0

Eテレ2015年01月30日(金)放送分(1/3)
第4回 「 強まる資産集中 〜所得データが語る格差の実態〜 」


❏ 資産所有の不平等
 これまで所得の不平等について見てきたが,今日は資産所有の不平等をあつかう。
 私は,資本と資産とを同じ意味で用いている。
 現実の世の中で,資産所有の集中のレヴェルが,どのような要因によって 起きているのか。それを説明する理論モデルとは,どのようなものなのか。

理論モデル→(3/3)で説明
資産蓄積
予備的貯蓄モデル
ライフサイクルモデル
王朝モデル
ランダムショックモデル
http://4472752.at.webry.info/201502/article_8.html
2015/02/05 16:16
資産集中の変化の重要な部分を説明する「ランダムショックモデル」


❏  所得データの獲得方法 (前回の補足)

 上位所得層の所得データの収集方法を少し補足する。
 所得分配の長期データ,とくに 上位所得シェア(占有率)の基となる数値と その読み解き方についてだ。

(図表)最上位1%の総所得のシェア(占有率)
アメリカ,イギリス,カナダ,オーストラリア
<The World Top Incomes Database 世界最高総所得データベース>

画像


 前回,様々な国の上位所得占有率とその長期的な変化を見てきた。
 それは世界最高総所得データベースにあるものだが,それらのデータの元々の出所と,それをまとまった時系列データに組み立てる方法について,少しだけ触れておく。
 もちろん,ディジタル・データの形でファイルされていればすぐに扱えるから話しは早い。
 ある国の納税者全員の記録が残されている場合もあるし,サンプルによる調査で全体を推定する方法もある。 納税申告記録から,所得上位10%とその所得占有率を計算しなければならないが,簡単な計算だ。
 だけど,常にデータが理想的な形で残されているわけではない。 とくに古いデータは,個人別のデータ・ファイルになっていない。コンピュータのなかった時代には,逐一個人の資料にあたり,紙の束からファイルを作っていた。これにはかなりお金もかかる。これは私が他の研究者たちと一緒に19世紀以降のフランスの資産不平等の長期的な変化を調査したときに実際に行なったやり方だ。個人個人の資料にあたるのは,お金と時間がかかる。
 税務署が作った統計表を使うこともよくある。

 19世紀以来どこの国でも,コンピュータがなかった時代だが,税務当局は,所得税,相続税,資産税のそれぞれの税収を計算し,その記録をいくつもの所得階層や,資産規模別に分けて,表にまとめていた。
 そこには,納税者の数,納税者の所得の総額が記載されていた
 こうした方法は,時代遅れのように見えるかもしれないが,これ以外に方法がないし,ちゃんとしたデータがないからと言って手を拱いて何もしないよりは,はるかにマシだと頭に入れてほしい。重要なことは,こうした資料からその背後にある分布の状態を 如何に推計するかということだ。現在でもそうした方法が必要な場合がある。
 税務当局は 財務データの全面的な公表には後ろ向きで,総括的なデータしか手に入らないことがよくあるからだ。 だからまず初めに個人情報の問題がない資料を請求してみよう。そして徐々にそれ以外の資料をもらうというのが良い戦略だと思う。データ入手の基本原則は,もらえるものをとにかくもらって,それからその枠を広げるということだ。
 研究者にデータを公表しない表向きの理由は個人情報の保護だ。まず初めに「そんなデータはない」と,その次には「個人情報だから 出せない」とくる。だから,この言い訳をかいくぐるためには,まず簡単な資料をもらっておいて,それから範囲を広げることだ。いずれにせよ簡単な資料でもかなりの分析が可能だし,問題によってはそれでも十分だ。

 データ・ファイルについて詳しく説明する。これは,フランスの1923年の統計年報だ。

(画面)フランス統計年報1923
1877年からフランス財務省が定期的に刊行する。課税政策のために,納税者に関する統計などの報告。

画像


 コンピュータが普及する以前には,今よりもたくさんのデータを公表していた。今はデータ・ファイルがあるから,印刷する必要もなくなった。しかし,担当者が原本ファイルまで捨ててしまって,挙げ句の果てにその読み解き方すら分からなくなっている場合もある。
 フランスの財務省には,1980年代の資産課税のデータすら,まともに読むことのできる人がいない。
 今では,印刷も出版もされなくなり,データ・ファイルに置き替わってしまった。 同時に,かつての記憶もなくなってしまった。困ったことだ。
 コンピュータ以前は,紙が記録を残せる唯一の媒体だったから,統計年刊はフランスのみならず,どこの国でも途轍もなく分厚い物になり細かい表が沢山収められるようになったていた。

(図表)1919年 フランス上位所得者の納税額
画像


 上の表を拡大してみると,表左から,縦1列目,所得区分で100万フラン以上まで所得が区分されている。縦2列目,人数。 縦3列目,課税対象所得額。 この表から何が読み取れるだろうか。

所得区分(フラン)人数(人)課税対象所得額
6,100〜10,000   136,787  1,176,326.800
11,000〜20,000  193,679  2,851,910.400
20,100〜30,000    58,894  1,477,045.800
30,100〜50,000   39,974  1,529,512.700
50,100〜       23,822  1,592,572.500
< 途中省略 >
300,100〜500,000  1,388  527,734,800.000
500,100〜100,000   576  387,082,900.000
最上位100万以上   181  451,968,100.000
Total        467,137(人)
  

 上位の所得区分が沢山あるが,最上位の所得100万フラン以上は181人。
 当時の100万フランというと,大変な金額だ。
 1919年は,フランスが金本位制を離脱して,物価上昇が激しかった時代だったが,それでも相当な購買力だっただろう。
 今の貨幣価値に換算すると,1千万ユーロぐらいだろうか。途轍もない所得だ。

 このように表を細かく見ていくと,幾つもの所得階層があるので,それだけで所得分布の正確な形を推測できる。
 これは現在でも同じだ。フランス財務省はオンラインで財務データを公開している。 残念ながらすべての国ではないが,多くの国が同じようなデータを公開している。 現在,最新のデータは2011年や2012年のものだと思うが,それぞれ所得階層が細かく区分されていて,その区分ごとの納税者数が表に示されているはずだ。 中国など,データの公表に後ろ向きの国もあるが,そういった国では,税の制度はあっても,統計がない。

 ちゃんとした議会がある国なら,そこで予算や所得税の問題を議論しなければならない。
 税制のあり方を民意で決めるというのが,民主主義の根幹だから,財務省がそのための資料を作るというのは当然の義務だ。
 国がデータを作るのは学生や研究者のためではない。
 議会制民主主義が機能するためには,議会が税制を決め,納税の資料を公表しなければならない。
 フランス政府が1919年にこうしたデータを出したのも,他の国がそうしているのも同じ趣旨だ。

 こうした生データを用いて,私たちは世界最高所得データのプロジェクトを行なっている。

 上の表には,さらに色々な情報が含まれている。
 納税者数,所得額区分。 所得区分ごとの平均所得も計算できるし,分配状況を把握できる。
 また,この表には 控除額(MONTANT DES DEDUCTIONS)扶養家族控除項目(pour charges de famille)も入っている。所得のない配偶者や子どもなど,被扶養者がいる場合の所得控除だ。
 各所得階層の およその子どもの数や配偶者の有無など,税率を計算するために必要な情報もある。 総納税額,扶養控除,子どもが2人あるいは3人以上の世帯という具合だ。
 この時代には税の「単身所帯割り増し制度」というのがあった。何と,独身者は25%の税の割り増しがあった。
単身世帯割り増し 世帯数 世帯所得 割り増し納付額
子どもがいない世帯割り増し 世帯数 世帯所得 割り増し納付額


 このように,税制面で結婚と出産が奨励されていたわけだ。 たとえ結婚しても,3年間子どもができない所帯に対しては10%の割り増しがあった。<学生たち・あきれたように笑>
 これによって,どの所得階層の婚姻率は,どのくらいか,3年以内に子どもをもうけなかったのは,どのくらいかが分かる。

 税制を作る上で重要なことは,どんな法律にせよ,関連するデータを集めて議論しなければならないということだ。
 政治家の思い込みというのは,ときとして激しく,とくにこの時代フランスの人々は,第1次世界大戦のトラウマで,ドイツに出生率で負けてしまうという強迫観念に囚われていた。だから当時フランスは強力な出産奨励策を採った。子どもがいなければ増税するというわけだからねえ。
 この政策は,1945年まで続き「家族指数」という制度が作られた。フランス出身者以外には「家族指数」と言っても何のことか分からないかも知れないので説明する。 指数が高いほど税が低く,指数が低いほど税が重い。

「家族指数」(指数が低いほど重税)
(独身の場合)単身世帯     1
(結婚)子どものいない世帯   2
(結婚)子どもが1人の世帯   2.5
(結婚)3年経って子どもがいない世帯 1.5


 この制度が1945年にできて1953年頃まで続いた。

【学生】
 こうした税務統計では補足されない人々の割合は,フランスやイギリスの場合,歴史的に見てどのぐらいだったのか?

【ピケティ教授】
 良い質問だ。税務統計に表れない経済活動。例えば,農業の多くは全般的に課税対象から逃れている割合が大きいだろうし,自営業者もそうだ。税制ができたときから自営業者にいかに課税するか,議論されてきた。それは複雑な問題で,税務統計では補足されない人々の割合は,今より大きかったと思う。だから,かつては格差が大きいと言っても,それは過小評価されていたものかも知れない。逆にまた,統計に表れていない人々が必ずしも富裕層であるとも限らない。
 
 所得の階層区分ごとに,その所得の構成がどうなっているか記録した表があるので簡単に見てみる。これは1919年のフランスの表だ。
(図表)所得の階層区分ごと その所得の構成
画像


 「所得の項目の内訳」を見ると,例えば所得区分 6,100〜10,000フランでは,納税者の所得合計は 11億フランと記載されている。
 その内容を細かく見ると,

建物など不動産などを所有している場合の賃貸料(不動産収入)
所有地から上がる地代収入
配当・利子など金融資産による収入
農業による収入
商工業による収入
鉱業による収入
≪労働所得≫ 給与(公共・民間部門)


 項目が10あり,7番目にやっと労働所得が出てきた。

 総所得に占める労働所得の比率は,一番低い所得の階層で 60.4%
 この表の中では一番貧しいとは言え,当時納税者だったということは,それなりの所得があった人々だ。
 彼らは,所得上位10%ないし5%以上だったに違いない。
 所得上位10%の中の最も下の層は,労働による賃金の割合が高かった。
 所得が上がるに従って,賃金の割合は小さくなり,ゼロに近付く。金融収入の割合は,その逆に上昇し,所得上位層になるほど金融収入の割合が増える。


 この表から,所得の種類だけでも様々な情報があり,資産所得と労働所得,さらに資産所得の中にも色んな項目があることが分かる。
 どの国の統計も,情報の宝庫だ。

(図表)各国の所得税制 導入年
画像


 アメリカでは1913年,フランスでは1914年に,それぞれ所得税制ができた。
 イギリスでは1840年代に既に所得税制があったが,それが1909年に累進税になった。
 日本は1887年,ドイツは1891年に所得税導入。その他の国でも1900年から1920年頃に所得税が導入された。
 インドのように,植民地の宗主国によって早い時期に所得税を導入した国もある。イギリスは1922年にインドに所得税を導入している。
 所得税がある国なら,どこの国にでも 所得税のデータがあるということを頭に入れておいてほしい。
 納税記録のファイルを手に入れるのに一苦労することもよくあるが,原則として,この種のデータを請求することを税務当局は拒否することができないので,必ず入手できるはずだ。 彼らは情報を独占し,自分たちがその情報を使いもしないのに,何だかんだ理由を付けて公表を拒もうとする。

❏ 資産所有の不平等

 資産の集中が拡大してしまう基本的な事実は,次のとおりだ。

 19世紀から第1次世界大戦までのヨーロッパ,少なくても,データがあるイギリス,フランス,スウェーデンについては,資産の集中・不平等は,極端に高い水準だった。
 極端と言うのは,資産所有 上位10%が,約90%の総資産を持つという状況のことだ。
 さすがに100%にはいかないが,ほぼそれに近い。
 最上位 1%がおよそ60%の総資産を占有し,イギリスではおよそ70%を占有するという状況だった
 第1次世界大戦までは資産集中の縮小は見られず,むしろ僅かながら拡大している。
 国によっても異なるしデータも不完全だが第1次世界大戦までの10年間,もしくは20年間は,資産集中の度合いが,はっきりしない。
 しかしその後,2つの世界大戦,世界恐慌を経て,資産不平等が著しく縮小し,それは戦後 1950年代から 60年代まで続いた。
 しかし,1970年代から 80年代にかけて,資産の格差は再び拡大していく
ことになる。
 現在は100年前と比べると資産格差はまだかなり低い。2010年の数字では 資産所有 上位10%の資産シェア(占有率)は60〜70%。 ヨーロッパは60%で,アメリカが70%。1910年にはヨーロッパは90%だったから,大きな変化だ。

資産格差 (2010年)
ヨーロッパ 上位10%の資産シェア(占有率)60%
ア メ リ カ  上位10%の資産シェア(占有率)70%


 資産の不平等は,所得の不平等と比べてはるかに大きいということは,繰り返し述べてきた。
 所得不平等は,戦後のアメリカでは,上位10%の所得シェア(占有率)が30〜35%で,さらに50%程度まで上昇したりする。
 資産の上位10%シェア(占有率)は,それどころではなく 60%から70%。 場合によっては90%にもなった。
 どれほど所得不平等が大きいと言っても,資産の不平等には遠く及ばない。

 19世紀のアメリカの資産格差は,ヨーロッパほど極端ではなかった。少なくとも白人社会の間には中間層が存在していたから。 しかし,アメリカの資産格差はヨーロッパほど減少しなかったため,20世紀に入ってから,アメリカの資産格差はヨーロッパ以上に大きくなった。

 この,資産格差の拡大は,どのように説明できるだろうか。
 まず,基本的なグラフを見る。

(図表)フランス 総資産における上位10%と最上位1%のシェア(占有率)
普仏戦争 1870〜1871年
第1次世界大戦 1914〜1918年
第2次世界大戦 1939〜1945年

画像


 フランスでは20世紀の始め,上位10%の資産保有の割合は約90%だった。19世紀から大1次世界大戦まで,資産保有のシェア(占有率)が上昇するが,戦後,1970年まで低下し,再び若干の上昇を示す。
 近年の資産シェア(占有率)の数値は,相続税のデータが在外資産の取り引きに十分に反映されていないため,資産の格差を過小評価しているかも知れない。
 こうした在外資産は,これまで以上に重要となっている。
 もう1つ重要な研究課題は,億万長者の資産についてのデータを,このグラフに組み込んで,資産の上位への集中の実態をもっと具体的に明らかにすることだ。


 今では昔とは違って,それなりに資産を持った中間層が存在している。 資産上位10%のシェア(占有率)が,総資産の90%という,かつての水準に戻っていると言えるかどうかは分からないが,実際の上位への集中度は若干高めだと思われる。
 最上位1%の人々の資産のシェア(占有率)を見ると,第1次世界大戦まで,急速に上昇していたことが分かる。
 フランスは革命の後 1791年(ヨーロッパで最初に)相続税の制度ができた。 この相続税という制度は,それまでにはなかったものだ。少なくとも西欧諸国にはなかった。だからフランスには長期の資産分配を分析するには,おそらくどの国よりも打って付けのデータが残っている。
 第1次世界大戦までのフランスの相続税率はとても低いものだった。だいたい1%〜2%くらいだったから,財産を登記するための手数料程度だったと言える。それさえ払っておけば,何かあったときには警察を呼べばいいし,所有権を侵害される恐れがないというわけだ。税率が低いので脱税する必要もない。財産権を登録するようなものだ。

 フランス革命によってできたこの相続税の制度は,資産の再分配のためという理念とは裏腹に,金持ちの私有財産権をむしろ守るものだった。
 また当時は,資産に対する税は,一定の決まった税率で課税するのがフェアだと考えられていた。
 これが当時の一般的な考え方だったことは重要だ。この相続制度は,フランス国民誰にでも適用されたからだ。 1800年頃から,土地,不動産,金融資産など,ありとあらゆる財産に対して適用された。かなり現代的な制度が,この頃できたわけだ。

 他方イギリスは,土地に対する課税と金融資産に対する課税とが一本化されたのが 1910〜1920年頃と,ずっと後のことだ。
 フランスは革命のお蔭で19世紀にはレヴェルの高い,資産についてのデータが残されている。革命前の資産格差はもっと激しかっただろう。革命で教会や貴族の土地が没収され,再分配されたので,その分,資産格差は小さくなったはずだが,それが実際に どの程度だったかは分からない。ただ,革命前の格差が,より強かったことは確かだろう。
 しかし,革命後の格差の水準でさえ,20世紀の格差の水準と比較すれば,極めて高いものだ。だから,革命がもたらした変化は,それほど大きなものではなかったと言える。

< 続く >

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
どれほど所得不平等が大きいと言っても,資産の不平等には遠く及ばない 銅のはしご/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる