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zoom RSS 富裕層による資本主義の私物化が行き過ぎた不平等と政治経済の不安定をもたらす

<<   作成日時 : 2015/02/16 23:28   >>

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トマ ・ ピケティ 『21世紀の資本』
第6回 (2/3) 

Eテレ2月13日(金)放送分
「これからの資本主義」〜再分配システムをどうつくるか〜


21世紀の資本の規制
Regulation capital in the 21st century
税制と再分配の仕組みを
不平等の構造から検証すること


 では次に,資本の規制とその政策の問題に話しを進める。
 いよいよ,21世紀の資本規制の問題を考えていくことになる。ここでは,税制に的を絞って話そうと思う。
 もちろん政策問題については,他にも議論すべきことが沢山あり,税制だけが重要だと言うつもりはない。

 アメリカで不平等が広がっているが,これは上位10%のシェア(占有率)が急上昇しているためだ。
 これは飽くまで,再分配前の所得で見たものだ。

 再分配前の所得とは,つまり課税前の労働市場で得られる所得だ。
 税や移転所得,つまり社会保障などによる所得の再分配などを含めると事情は変わる。
 場合によっては,税と移転所得が不平等を拡大させることもある。

 上位所得グループに対する実効税率を引き下げたりすると不平等は強まるし,逆に下位所得層への移転所得を増やすと不平等が緩和される。


 理想としては,我々も将来的に,課税前,課税後,および移転所得を含んだ再分配所得の時系列データを公表したいと思っている。
 だが,それが容易いことではない理由を話そう。

❏ 貧しい人たちに比べて,最もリッチな人たちほど公的支出の恩恵に与りやすい

 現実の世界では,税収は巨額な規模に上っている。
 いくつか資料を見てみる。まず頭に入れておいてほしいのは,先進国の税収の規模がGDPに占める割合は,20世紀を通じて,10%から,現在の40%〜50%まで上昇してきたことだ。
 財政規模の上昇の最も大きな部分を占めているのは,年金や失業手当だ。しかし,他にも教育費や医療費など多くの現物給付による移転所得がある。
 これらは,現金による移転所得ではない。

移転所得
 家計が受け取る失業保険や年金などのことで,生産に関係しない所得
現物給付
 教育や医療サービスの提供などによって行なわれる社会保障給付


 では,現物による移転所得とは何か。
 それは,教育や医療を,無料もしくは僅かな料金で受けられることを意味する。どの所得層がその恩恵に与るかは難しいところだ。
 課税後および移転所得後の分配を明らかにすることが望ましいのだが,そのためにはこの現物移転の問題を考慮しなければならないので,そこが難しい。

 例えばアメリカは,この数十年間,最も不平等が強まった国だが,人口の下位50%が 受け取った移転所得の最大の項目は,低所得者のための医療扶助で,これがずっと増えてきている。
 アメリカには,国民皆保険制度がないが,貧困者や高齢者に対しては公的な医療制度がある。この移転所得の額が過去30年間 急増している。もしも,こうした現物給付を下位50%の再分配前の所得に加えれば,この層の所得の伸びは,課税前所得だけを見た場合よりも,かなり大きくなるはずだ。

 問題は,こうした医療給付の増大をどのように解釈すべきかが明確ではないというところにある。
 なぜなら医療給付の多くは,健康維持費つまり医療コストがアメリカで増大したためだ。

 この医療コストの増大は,果たして医療サービスを受ける人のためになっているのか。それとも,医療サービスを与える人たち,つまり医師や製薬会社のためになっているのか。これは複雑な問題だ。
 アメリカではこの爆発的に増加する医療費の解釈をめぐって激しい論争が起こっている。
 社会保障制度を研究しようと思うなら,こうした問題に踏み込まなければならない。

 こうした移転所得を再分配前の所得に加えて,課税後および移転所得後の不平等の尺度を作るのではなく,移転所得全体を別々に検討するほうが良いと考えることがある。
 再分配前の所得を土台に,教育や医療へのアクセスはどうか,加えていくというようにね。

 教育への支出から誰が利益を得ているのか。それは複雑な問題だ。
 フランスの高等教育の学費は,無償もしくは無償に近いわけだが,エリートのための特別な学校であるグラン・ゼコール Grandes École に行く人たちは普通の大学に行く人たちとは違う。
 つまり,最もリッチな人たちほど,貧しい人たちに比べて,公的支出の恩恵に与りやすいということだ。
 移転後の所得分配を考える際には,この点を見る必要がある。

 警察の支出について考えてみる。それによって恩恵を受けるのは誰か。貧しい人か,お金持ちか。中にはそれが専ら貧しい人のための支出だと主張する人がいるが,治安が乱れたときに失う物が多いのは,貧困層よりも富裕層だろう。

❏ 21世紀 政府の財政規模の急激な拡大はもう起こらない

 現物給付を機械的に所得に加えることは,必ずしも意味があるとは言えない。

 より意義があるのは,現代的な租税国家および社会的国家の拡大を,教育,医療などの支出や,不平等の構造から検証することだ。 
 これが,1番目のポイントだ。
 第2のポイントは,こうした租税国家および,社会的国家の規模の増大だ。私は敢えて大躍進と呼びたいが,こうしたことは今後はもう起きないだろう。

 21世紀には税収は,ほぼ安定するか,税金の引き下げ競争によって 減少すると思われる。若干増える国もあるかも知れないが,今の水準からさらに上昇して,70%,80%とはならないだろう。未来のためのチャレンジは複雑だ。
 少なくても既に政府が大きくなってしまった先進国では,その規模をさらに大きくするのではなく,無駄な支出を省いたり,制度を簡素化したりすることが必要だ。

 世界恐慌の後は,政府の役割を広げれば,あらゆる問題を解決できると考えられた。その意味では,当時より今日のほうが難しい。

 2008年の金融危機を経た今,人々は市場の役割に対してと同じくらい,政府の役割に対しても疑念を抱いている。今もそうだ。
 政府の財政規模はすでに,GDPに占める割合で 40%〜50%という水準なので,そうした疑問が消えることはないだろう。
 政府が正しく機能しているかどうかをチェックする(阻止・抑制する)ことは当然だ。 実際,上手く機能していないのだから。

 かと言って,小さい政府は,繁栄のための条件では,決してない。
 ヨーロッパでは,ブルガリアやルーマニアなど貧しい国の税収は最低の水準で,GDPの20%だ。
 もし豊かな国になるため,僅かな税収で十分だと言うなら,ブルガリアやルーマニアは,スウェーデンやデンマークより豊かになっていたはずだよねえ。

 問題は,その税収で何をするかということだ。
 デンマークやスウェーデンのように税金を上手く使えば良いわけだ。 フランス人が税金の使い方が上手いかどうかは分からないけれどね。
 それこそ,我々自身の問題でもある。

❏ 20世紀を通じて大きく変わってきた政府の規模

 一般的には,政府の規模は20世紀を通じて大きく変わってきた。 将来を見据えた時に、政府の規模が大きくなった経緯を踏まえておくことが重要だ。

(図表)富裕国の税収の推移
縦軸 国民所得比 0〜60% 横軸 1870〜2010年

茶色 スウェーデン 青色 フランス 緑色 イギリス 赤色 アメリカ
画像


 およその数字を頭に入れておいてほしい。上の図は,富裕国の税収額だ。 ここで挙げたのは,スウェーデン,フランス,イギリス,アメリカだ。
 第1次世界大戦前(1870〜1910年)は,これら諸国の国民所得に対する税収の割合は10%未満だった。

 それが大きく変わって,現在,アメリカは 30%,イギリス 40%,フランス 50%,スウェーデン 53%という水準だ。
 これは2010年のデータだ。
 2014年,フランスはもう少し高くなっているかも知れないが,まだスウェーデンほどではないだろう。
 いずれにせよ30年くらいの長い目で見ると,年ごとの変動はあるにせよ,どの国もその割合が安定している点が興味深い。

 フランスは,今ではとくに税率が高く,GDPに占める割合で見た公的支出が高い国になっている。
 しかし,少し長いスパンで見ると,どの国も,国民所得に対する税率こそ違っても,一定で推移していることが分かる。

 こうした先進富裕国の税収の大幅な増加は,押し並べて2つの世界大戦の間の時期に始まり,1950年代から70年代までに顕著に増えて,1980年代以降安定するという経緯を辿っている。

 貧しい国々や新興国の中には,税収がGDPに占める割合が20%以下,さらには10%以下という国さえある。
 アフリカのいくつかの国やインドでは,10%〜15%だ。最も貧しい国や新興国においては,これ以上に税収が小さい国もある。
 富裕国では,税収がGDPに占める割合は30%〜50%あまりで,20%や10%という国はない。

❏ 理想的な税体系は,累進的な所得税・相続税・資産税の3つが揃っていること

 ここで所得税の累進性について少し話そう。
 私が理想的な税体系だと考えるのは,累進的な所得税・相続税・資産税の3つが揃っていることだ。

 もちろんこの3つの税は,極めて重要だが一筋縄にはいかない。
 所得税を中心にして,相続税や資産税は小さいほうが良いと考える人もいるだろう。それぞれどの程度の比重を持つべきか判断するのはとても難しいことだ。

 最上位層に対する累進性は重要だが,歴史的に見てその意義の大半は,最上位層の労働所得を抑え,彼らの利益追求をいわばコントロールするというところにあったと思う。
 しかし,税収について言えば,私は極めて高い税率が全体の税収を増やすための正しい方法と考えているわけではない。

 大多数の人々にとって,所得税の実効税率はそれほど累進的ではない。
 それは,完全に一定の率と言うわけではないが,社会保障税を含めると,皆,沢山の税金を払っていることになる。
 実際,大多数にとって現在の課税制度は,低率の税制と極めて近いものだ。

❏ アメリカ1950年代の精神。富裕層による資本の私物化が,行き過ぎた不平等をもたらし,政治経済の不安定を生みだすという認識

 ところで,上位層の税率は,極めて高いが,それは歴史的に大きく変化してきたものだ。
 最高税率を引き上げたのは,歴史的に見て全体の税収を増やすためではなく,最上位の所得の急激な上昇を抑えるためのものであったと,私は考えている。
 もっと具体的に見ると,アメリカ, ドイツ,イギリス,フランスの所得に関する最高税率の推移が,以下の図だ。

(図表)所得税の最高税率
縦軸 0〜100% 横軸 1900〜2012年

フランス イギリス ドイツ アメリカ
画像


 このグラフから学ぶことは沢山ある。
 第1に知っておくべきことは,税制の歴史はカオス状態だったということだ。
 変動が激しい。

 政治的な争いは,いつの世も絶えないし,今後もそれは変わらないだろう。どうなるかは,誰も予想がつかない。それがまず大きなポイントの1つだ。

 2つ目のポイントは,1914年つまり,およそ100年前までの所得税率は,ほぼ0%。基本的に存在しなかったということだ。
 19世紀の最大の財源は,間接税だった。
 所得税は20世紀の偉大な産物の1つだ
と言える。

 100年前は,どの国も所得税は言ってみればゼロだった。
 アメリカで所得税が導入されたのは1913年で,フランスは1914年だ。

 第1次世界大戦から第2次世界大戦に至るにおよんで,最高税率は突如,途轍もなく高い水準へと引き上げられた。 とくにアメリカとイギリスの両国はそうだった。今では これらの国でも,税率は40%〜50%程度だ。

 アメリカとイギリスの最高税率は,かなり長期にわたってフランスやドイツよりも高かった。
 アメリカの所得税の最高税率は90%代にまで上昇した時期があった。もっともこれは,年間所得100万ドル以上の高額所得者に対してのみ適用されたものだ。
 1930〜1980年の各時期の税率を平均すると,あるときは90%,あるときは70%になる。
 アメリカの所得税の最高税率は1930〜1980年代の50年間を平均すると,82%になる。

 この高い税率が,アメリカ資本主義を損なったわけではない。
 こうした高い税率は,年収100万ドル以上の高額所得者に対してのみ 課せられたからだ。そうなると,1000万ドルといった報酬を受け取ることも,100万ドル受け取るのと 大した違いはないからね。
 高い所得に高い税率を課しても,重役たちの生産性にさして悪影響があるとも思えない。

 レーガン政権以降,最高税率が引き下げられたが,逆に,生産性を上げる効果があったかどうか,はっきりしない。
 1980年代以降,生産性の増加率は,50年代から70年代と比べて高くなったどころか,むしろ低下している。


 私は,研究仲間と共同で書いた論文で企業の比較分析を行なった。
 個別企業のデータを集めて,北アメリカ,ヨーロッパ,日本の上場企業全体と,経営者に100万ドルではなく1000万ドルを支払っている企業とを比較した。
 そして,そうした企業の実績や雇用創出,生産性に,はっきりした違いがあるかどうかを見た。
 しかし,そのような違いは見られないということが分かった。
 いつの日か,生産性の向上を示すようなデータが出てくるかも知れないけれどね。 少なくとも今の時点では,ある程度の水準を超える高い重役報酬が,それほど効果的であるとは言えないようだ。

 いずれにせよ,こうした経験的事実の解釈がどうあれ,私たちは歴史的事実をちゃんと踏まえることが重要だと思う。
 なぜなら,人々は,税率の劇的な変化があったことを知らされても,にわかに信じようとしないからだ。
 こんなに税率が高かった時代があったはずはないと思い込んでいる。


 不平等や,累進税制,公的債務や資産が,重要な争点になったのは,昨日今日のことではない。

❏ アメリカは1950年代に民主的な制度と財政制度を結びつけ,所得と富の極端な集中によって,民主主義が金権政治に陥るのを防いだ

 様々な国の長い税制の歴史からは,学ぶべきことが沢山ある。ときには,驚くべきこともある。

 ドイツを例に取れば,1回だけだが,所得に対して相続税とまったく同じ率の90%という最高税率がかけられたことがある。
 それは,1946年から1948年までの時期で,アメリカ人たちがドイツの税制を作った。
 当時ドイツは連合軍の占領下にあって,事実上アメリカに支配されていた。これは日本も同じだ。
 ドイツと日本が,1950年代に財政主権を回復してから税率は下げられ50%という当時合理的と思われた税率に改められた。ドイツはさすがに90%というとんでもない税率は,アメリカ流の途方もない理想であり,とても受け入れられないと考えた。
 当時は何でもアメリカ風という時代だったが,アメリカはドイツと日本を懲らしめるために,このような税制を布いたのではない。それは,アメリカ自身が自国で採用していた制度だった。
 懲罰的な意味では決してなく,飽くまで近代化のための政策の一環だった
。 

 民主的な制度と財政制度を結びつけ,所得と富の極端な集中によって,民主主義が金権政治に陥るのを防ぐためだった。

 これは当時の実際の通念であり,私が言い出したことではない。
 我々の歴史的遺産の1つだ。
 風変りで,まったくバカげていると思われるかも知れないが,これは,20世紀の紛れもない事実だ。

 理解しておくべき大切なことは,こうした税制をめぐる,政策や制度の大きな変化は第1次世界大戦とその後の世界恐慌がもたらした大きなショックに対する反作用として生まれたものだ。

 とくにアメリカ人が世界恐慌から受けたトラウマには凄まじいものがあった。それは無理もないことで,1920年代の所得格差の拡大によって大企業の一部の人々に富が集中し,それが同時に世界恐慌をもたらした。その結果,第2次世界大戦にまで至ってしまったと,アメリカ人は考えたのだ。
 人々は,こうした金融システムや経済システムが破局,世界恐慌を引き起こしたことに,大いに狼狽した。


 忘れないでほしいのは,世界恐慌という強いショックの反作用として,高い税率を制定したアメリカの精神だ。
 富裕層による資本主義の私物化が,行き過ぎた不平等をもたらし,政治経済の不安定を生みだすという認識だ。
 つまり,政策自体がショックの一部だった。


 所得税に関してはこのとおりだが,次の相続税のグラフについても同じことが当て嵌まる。


< 続く >
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