銅のはしご

アクセスカウンタ

zoom RSS 将来起こり得ることの1つは強い不平等/大規模な資産投資ほど収益率が高い

<<   作成日時 : 2015/02/16 01:52   >>

トラックバック 0 / コメント 0

トマ ・ ピケティ 『21世紀の資本』
第6回 (1/3)
 Eテレ2月13日(金)放送分
「これからの資本主義」〜再分配システムをどうつくるか〜


上位層の所得や資産や把握しておくのは重要だが,これまでのデータ・ベースの中には,在外資産やその資産が生み出す所得は含まれていなかった
不平等の拡大を幾分過小評価していた

【 資本の規制と不平等 】


 今日は最終回だ。テーマは資本の規制と不平等。
 ここで触れたいのは,政策の問題だ。
 これまでは主に資本や所得,そして資産や分配など,それぞれの展開を取り上げて,説明してきた。
 その際,それらの政策的な意味合いについては,あまり触れなかった。
 今回は,資本の規制や,最適な課税はどうあるべきか,話していく。

❏ 富の分配のあり方は,未来永劫 不変ではない

 19世紀のアメリカは,資産蓄積の時間が浅く,数世代にわたって資産を蓄積してきたヨーロッパほど格差はなかった。しかし,今は違う。
 数世代を重ねていくと,同じ家族に富が蓄積され,資産が分散するどころか,むしろ集中するという傾向が生まれる。
 しかし,時間が経つにつれて資産集中が弱まる可能性がないわけではない。
 確実に言えるのは,現在の富の偏りを見て,それを固定的な状態であるとは見做してはならないということだ。

 資産分配の長期にわたる均衡状態が,何によって決まるか という問題を考えるためには,長期の変動を歴史的に分析する必要がある。

 もちろんそれは簡単なことではない。 様々な要因を挙げることができるが,それが将来どのような重要性をもって作用するかを判断するのは,難しい。私にとってもそうだけれど。
 私は将来のことよりも過去の分析が得意だが,私たちができることは将来の一連の可能性を提示することであり,それに尽きる。

❏ 大規模な資産ほど収益率が高く,それが強い不平等化の作用をもたらす

 将来起こり得ることの1つは,大規模な資産投資ほど高い収益率を生み,当然のことながら,それが強い不平等をもたらすということだ。
 これが大学基金のケースだけなら,大した問題ではない。大儲けしても,一応は科学や知識のために有益に使われるわけだから。 もっとも,大学間の不平等が深刻になる という 問題はある。ハーヴァード大学に行く人たちには良いことだが,アメリカ国民の下位50%は そう簡単にハーヴァード大学に行けるわけではない。
(表)アメリカ大学基金の年間収益率
画像


❏ SWFソヴリン・ウェルス・ファンド の収益性は,一般的にとても高い

 もう 1つ注目したいのは,国家による資産運用基金SWFソヴリン・ウェルス・ファンド Sovereign Wealth Fund (以下,SWFと表記)だ。

 SWFと民間の投資ファンドとの区別は,はっきりしない場合が多い。
 国によっては,石油など 天然資源の資産を保有しているのが,純然たる個人の場合も あるし,政府である場合もある。 ときにはそれが国家の元首だったり,民間の一個人だったり,所有形態は実に様々だ。


SWF ソヴリン・ウェルス・ファンド
Sovereign Wealth Fund

国家が保有する預貯金を運用管理するファンド。
コーポレート・ガバナンス評価研究会
Corporate Gavernance Research Institute
http://www.cgi-research.com/articles/08110903.php
1.SWFとは
SWFは国家が保有する預貯金を運用管理するファンドである。これは政府から委託された中央銀行や金融当局が外貨預金、金、SDR、IMF準備金などで、国によって運用は年金基金、石油ファンド、株式・債券投資や不動産のファンドなどさまざまな形態になっている


 問題は,SWFの収益性は,一般的には,とても高い ということだ。

 アブ・ダビとノルウェイは,最大のファンドを持っていて,現在7,000億ユーロ。 アメリカの大学基金を全部合わせたおよそ2倍の大きさだ。
 問題は,その収益率の大きな違いだ。
 Abu Dhabi 700 billion €(7千億ユーロ≒94兆円)=Norway

 アブ・ダビの収益率はとても高いが,ノルウェイやサウディ・アラビアは低い。
 リスクの高い投資をせず,公的債権への投資が大きいためだ。
 アメリカ国債を大量に保有するという選択肢が,収益率を低くしている。

 アメリカ国債を買うのは,経済的な選択なのか,それとも政治的な選択なのか。つまり,軍事的保護に対する見返りのようなものなのか。複雑な問題だ。


 とくに,サウディ・アラビアの場合はアメリカとの関係は多面的かつ複雑だ。 経済面だけで判断するのは幼稚だと思う。 かと言って,軍事的支援に対する見返りだけでもないと思う。
 ハーヴァードなどの大学基金の運用とノルウェイやサウディ・アラビアによる SWFとの投資戦略の違いはノルウェイやサウディ・アラビアが世論を気にしなければならない点にある。

 彼らは,国の資産で何をやったかを,国民に説明する義務がある。

 国民からすれば,国のファンドが 投機的なヘッジ・ファンドや,リスクの高い 商品デリヴァティヴ , プライヴェート・エクイティなどに手を染めるのは,好ましいことではないだろう。

 結局のところSWFの投資戦略は,アメリカの大学基金ほど野心的ではないということだ。

 しかし,アブ・ダビは積極的だ。その違いは,アブ・ダビの人口があまり多くないことによる。
 けれども,サウディ・アラビアのように人口が2000万人,3000万人となると話しは違ってくる。
 つまり,経済的な思惑だけではなく,政治的な戦略も絡んでくる。
 いずれにせよ透明性がほとんどないため,データが限られているのが実情だ。


 ノルウェイはかなりデータがあるが,それを別にすれば,ほとんどのSWFについては,詳しいデータがない。

❏ SWFの世界の総額 約5兆5千億ドル(2013年)

 主要産油諸国 および 中国を始めとする非産油諸国を合わせると,現在,SWFの総額は,5兆5千億ドルにも上る。
 その規模は,全世界の億万長者の資産の総計に匹敵する。

 もちろん,資産の規模が大きいほど収益性も高いという傾向は,SWFにも当てはまる。
 国の規模で見れば,その効果も絶大だ


 例えば,ノルウェイのファンドの国外資産,つまり国外で公式に保有する資産の規模は,ノルウェイの年間GDPの規模の2倍で,急速に成長している。
 彼らは明確な目標を設定しているわけではない。しかし,もし国外資産がGDPの3倍から5倍にもなれば,4〜5%で運用すると,国外からの資産所得は4〜5年で GDPの40〜50%に達する。それは,国の輸出総額や製造業部門の生産規模を上回るものになるだろう。

 生産で生み出す所得よりも,国外からの資産所得が大きくなるわけで,これは,かつてなかった状況だ。
 これは,ノルウェイやその他の国々の経済のバランスや不平等の考え方を変えるほどのものだ。


 重要なことは,国際的な資本市場では,貯蓄戦略や資産規模による投資の違いによる収益性の格差も大きいということだ。
 そのため,極端な資産格差を生みだす強い力が働いている。

 そして,莫大な資産が,上位のグループや,いくつかの国々に流れ込み,それ以外は置き去りになる。
 こうした側面は重要で,将来ますます資産格差は大きくなるだろう。

❏ 在外資産の分析の重要性
在外資産 オフショア資産(海外にある資産)


 ここでは当然,これまであまり述べてこなかったもう 1つの重要な論点である オフショア資産,つまり在外資産の問題に触れないわけにはいかない。
 今日においては,在外資産の問題は,ますます重要性を増している。

 下図は,ある研究者の論文からの引用だが,富裕国が国外に持つ資産から負債を差引いた純資産の推移を,世界のGDPに占める割合で見たものだ。


(図表)国外純資産の保有残高
縦軸 世界のGDP比(−0.8%〜+10%) 横軸 1985〜2007年
グラフ 右端の数値は
日本 +4% ヨーロッパ −4% アメリカ −5%

茶色 日本オレンジ色 ヨーロッパ青色 アメリカ
画像


 上図で,日本はプラスとなっているが,それは 日本がずっと貿易黒字国であり,巨額に上る純資産を,国外に貯め込んできたからだ。
 ヨーロッパとアメリカはマイナスだ。
 上図には,ヨーロッパ,日本,アメリカ とあって,こうした富裕国の合計を,同じ図の中に赤色の線で示したのが,下図だ。


(図表)国外純資産の保有残高
赤色 日本とヨーロッパとアメリカの合計
日本 +4%ヨーロッパ −4%アメリカ −5% 合計 −4%
画像


 ヨーロッパの中でも,在外資産のある国もある。 ドイツのように大きくプラスの国もある。 今やドイツは国外資産を日本よりも速いスピードで増やしている。ヨーロッパの中でもマイナスの幅の大きい国もあり,ヨーロッパ全体としてはマイナスだ。アメリカのマイナス幅はさらに大きい。
 富裕国は全体として僅かにマイナスとなる。


❏ 国際金融統計の不整合
すべての国の在外資産と対外債務を合計すると,マイナスになる


 問題は,世界全体の合計だが,やはり,マイナスだ。
 本来,差引きゼロになるべきだが,そうならない。

 よく知られている国際金融統計の不整合と呼ばれるもので,勘定が合わず,世界の金融負債が金融資産を上回る
というものだ。
 まるで資産の一部を火星人が持って行ったみたいだよね。

 世界の貿易収支,あるいは経常収支についても,総計するとマイナスになるという同様の問題が見られる。
 輸入だけがあって輸出がない部分がある
,という問題だ。

 世界の国際収支が 総計ゼロにらないと,世界金融危機の正確な分析はできない。
 これは,いわゆる国際金融統計の不整合の最たるものだ。


❏ タックス・ヘイヴン Tax Heavenと隠れ資産
タックス・ヘイヴン Tax Heaven(租税回避地)税率が著しく低いか,または租税が免除される国・地域


 そのカラクリを解き明かす1つの説明は,
タックス・ヘイヴンを利用した,収支報告されていない金融資産の存在だ。

 もちろんそれを実証することはできないが,様々なデータ・ソースを組み合わせて,その数字をはじき出そうと試みている。

 その数値は世界のGDPの約10%に匹敵する。
 10%どころじゃないとする見方もあるのだけれど。例えば,NGOの推計では,隠れ金融資産がGDPに占める割合は10%,15%,20%では済まないほど大きいとしているが,私には下のグラフの数字のほうが,より現実的に思える。


(図表)国外純資産の保有残高
黄色 タックス・ヘイヴンにある金融資産の推計
画像


 世界のGDPの約10%に匹敵する隠れ金融資産は,これでも,先進国全体のマイナスを補って余りあるわけだから,これを,先ほどの,どこへ行ったか分からない資産による統計上の不整合の部分に置き換えれば,ヨーロッパは全体としてプラスになるというのが,ある研究者の結論だ。
 アメリカはさすがにプラスとまではいかないかもしれないが,マイナスの幅が現在の公式統計よりは大幅に小さくなるだろう。

 ある経済学者は,隠れ資産を,所有者別と国別に分類している。とても興味深い研究だ。
 Zuckman 2013 “ The missing wealth of nations are Europe and the US net debtors or net creditors ? ”
 これは,世界の資産分配の動きを見るための,とても重要なパズルの組み立てのようなものだ。

 在外資産も視野に入れる必要がある。そうしないと重要な部分を見過ごしてしまうからだ。
 隠れ資産の推計値も,世界の所得データ・ベースに加えるつもりだ。

 上位層の所得や資産を把握しておくのは重要だが,これまでのデータ・ベースの中には,在外資産や,その資産が生み出す所得は含まれていなかったからだ。

 このことは,不平等の拡大を幾分過小評価していたことを意味する。

 私たちは飽くまで,公式の納税記録などを用いて,何事も誇大視しないことに徹してきた。
 しかし,全体の結論がどう修正されるのか。
 最終的には,在外資産の推計を含めて,データを改善したい。この点が,将来へ向けた重要な改善点だ。もちろん常に不確実ではあるが,少なくとも,この方法を採れば改善が望めるはずだ。


【学生質問】
 国連大学の研究によると,今,資産格差が激しいのは新興国で,その理由は 大きな相続資産を受け継いだ人が,相続や消費によって資産(富)を分散させるだけの時間が,まだ経っていないからだという。教授は,これが現在新興国で起きていることだと思いますか。先進国でも産業革命の時代に,同じようなことが見られたのでしょうか。


【ピケティ教授】
 そのとおりだと思う。新興国は,まだ安定した状態にあるとは言い難い。富裕国といえども資産分配が安定した状態に達するまでには長い時間がかかる。事実,決して安定した状態にはなっていない。
 なぜなら,基本的な経済の変数に,常に新たなショックや変化が加わる。
 新興国においては,現在の中国は言わずもがなだが,資産分配については,安定した状態からは,はるかにかけ離れている。
 だがまあ長期的な安定状態が訪れても,そこでの資産不平等が,現在よりも改善されているか悪化しているかは,別の問題だ。


< 続く >
にほんブログ村 政治ブログへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
将来起こり得ることの1つは強い不平等/大規模な資産投資ほど収益率が高い 銅のはしご/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる