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zoom RSS 不平等を測る指標 : 相続資産の実態 ・ 生前贈与が格差を大きくする

<<   作成日時 : 2015/02/09 16:53   >>

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トマ・ピケティ 『21世紀の資本』
Eテレ2月6日(金)放送分第5回(1/3)
世襲型資本主義の復活〜19世紀の格差社会に逆戻り?〜

資本収益率 r 経済成長率 g
資産所得  労働所得


相続資産の実態
On the long run evolution of inheritance

❏ 国民所得に対する相続資産の割合
 

 最近,超資産家や,所得数10億ドルの億万長者が増えている。それについては後で触れるが,相続資産が長期間のあいだに,どう変化したかを考える。

 差し当たりフランスのデータで見る。フランスがとくに興味深い国というわけではないが,たまたま,古くからの資産のデータが揃っているからだ。
 フランス革命は完全な理想社会を作りだすことには失敗したが,少なくとも資産に関するデータだけは作りだした。
 いわばフランス革命が相続税を生みだしたわけだが,それは当時としてはとても普遍的なものだった
 フランスには,他の国には見られない1800年頃からの富(資産)の蓄積に関する膨大なデータが揃っている。


(図表)国民所得に対する相続資産の割合フランス
縦軸 0〜40%  横軸 1820〜2000年(2010年ころまで)

画像


 上のグラフは,フランスで毎年の相続資産の総額がどれくらいのものか,国民所得における割合を見たものだ。
 19世紀には毎年,国民所得の20%〜25%という巨額の資産が相続されていた。(図表の黄色の部分)
 その巨額の資産が,2つの世界大戦の後に激減した。
 (グラフ右端の2010年)現在,相続資産の総額は15%ほどで ,19世紀の水準には及ばないが徐々に上昇しつつある

 相続資産の国民所得に対する割合は 20%〜25%の水準から,戦後 4%を下回る水準へと大きく低下した。
 毎年の相続資産の総額は,
 1910年から1950年までに 6分の 1に縮小し,1950年〜1960年あたりで底を打つ。
 50年代は,相続資産がほとんどない時代だった。
 2つの世界大戦を通じて相続資産が消滅したことは衝撃的でさえある。
 相続資産の推移は1940年代〜1950年代に,一時的に減少し,その後回復してきている。
 これは,どう説明できるだろうか


❏ 平均死亡年齢と平均相続年齢

 遺産を受け取る側つまり相続人の平均年齢は,どうなっているか。

(図表)平均死亡年齢と平均相続年齢
縦軸 年齢20〜100歳  横軸 1840〜2100年

青色 成人(20歳以上)の平均死亡年齢
黄色 平均相続年齢
画像


 平均寿命は 19世紀の約60歳から 21世紀現在の80〜85歳まで伸びてきた。よって,相続人の平均年齢も高くなっている。
 昔は,30歳くらいで相続していたものが,今では50歳近くになっている。

 2070年(予測)で数値が下がっているが,これは第 1 子を儲ける時期が遅くなる傾向があることと,生前贈与が増えているためだ。
 これは極めて重要だ。 死亡,相続などすべてのことが,これまでより 遅くなっている。
 相続が遅くなると,その分だけ人生設計を立てる必要が出てくる。30歳で相続していた時代とは違い,50歳で相続するなら それまでの間,自分の生活を自分で賄わなければならない。寿命がどんどん伸びるとともに,相続するときの年齢は大幅に上昇している。しかし,そうがっかりしなくてもいいだろう。
 なぜなら今では生前贈与という形での相続が増えているからだ。
 生前贈与は,相続の高年齢化を事実上相殺していることになる。

 生前贈与を行なう平均年齢は,死亡する10〜15年前なので(資産相続についての)年齢的には,大した違いではないが,死亡時の遺産の額には影響を及ぼす。大きな違いではないが,無視できるほど小さくもない。


❏ 死亡時の平均資産と生前贈与

(図表)死亡時の資産(平均資産額)
国民1人当たりの平均資産を100%とした場合
縦軸 60〜260%  横軸 1820〜2010年

赤色 生前贈与を含む
黄色 生前贈与を含まない
画像


 上の図は,死亡時に相続する資産の,平均資産に対する割合だ。赤は生前贈与を考慮した場合で,黄色は生前贈与を含まない割合だ。
 生前贈与を含むと,数字が膨らむ。

 生前贈与の割合は,19世紀にも大きく,それはしばしば 「持参金」の形で,結婚の際に男女問わず,子どもに分与された。
 実は今では,19世紀以上に「持参金」は大きな比重を占めている。
 それは「持参金」という形はとらないが,結婚の際などに 住宅を購入する資金を 親が援助したりするという形で なされている。子どもがヴァカンスで海外旅行へ行きたいと言っても,親はお金を出さないね。しかし,家を買うとなると話しは別で10万とか50万ユーロ(1300万とか6700万円)をポンと出す。それは出してくれない場合もあるかも知れないけれどね。いずれにせよ,生前贈与はだいたい結婚の前後で行なわれる。
 今日でも資産格差が依然としてあるが,19世紀ほど極端ではない。100年前と比べれば多くの人が多かれ少なかれ相続するものを持っていると言える。
 生前贈与の上昇は,とても大きいものになっている。


 (上のグラフ右端2010年の数値を見ると)生前贈与を含めなければ120%,含めれば 220%。これは,どういう意味だろうか。

 平均寿命は80歳前後だが,亡くなる際に保有している資産は,国民 1人当たりの資産保有額に対して,ほぼ120%となっている。ということは,平均より 20%多く持っていたということだ。
 だが,このカラクリは,生前に資産のおよそ半分を贈与した結果に過ぎない。
 相続資産に生前贈与を含めると,その割合は220%になるからだ。 つまり,120%の倍近くだ。
 半分近くが,生前贈与されていると見ていい
わけだ。
 相続の問題を語る上で,この変化は重要だ。
 生前贈与を無視して,蛻の殻になった死亡時の遺産だけを見ると,相続の実態がまったく理解できないことになるからだ。
 だから,生前贈与を勘定に入れることは極めて重要だ。


❏ 年齢と資産の構成

 先ほど見た,毎年の相続資産額の増大には,生前贈与も大きく係わっている。
 年齢と資産の構成を,注意深く見てみよう。 もっと沢山のデータがある。いくつかの年を取り上げて見る。


(図表)年齢別資産構成
50〜59歳の平均値を100%とした場合

画像


 上図は,フランスの年齢別資産構成の表だ。
 すべての数字を,その人たちが50歳代のときの平均資産の割合で示してある。 なぜ50代かと言うと,別に私が50代に特別な思いを持っているからではない。50代は人生で一番資産が大きくなる時期で,多くは自ら蓄えた資産であるという意味で 比較対象として適切な年齢と思えるからだ。 20代,30代を見てみよう。お金持ちというのは相続によってノホホンと暮らしている人が多い。80代,90代のお金持ちはと言えば別に会社を興したりアクセクしているわけではない。
 ところが50代のお金持ちは,自らの仕事,自らの会社で富(資産)を築き上げている場合が多い。そのお蔭で経済も活発になるというわけだ。

 他にも,この表からいくつかのことが分かる。
 19世紀を通じて,資産は高齢者に,より多く集中していた。
 1912年の257%という数値があるが,これは,80歳で亡くなった人々の資産は,50代の平均保有資産の2倍半の大きさであったということを意味している。 60代で亡くなった人は,50代を58%上回っていた。
 年齢別の資産額の傾斜が急なことが分かる。

 第1次世界大戦が起きるまで,資産格差は拡大を続け,年齢別資産の構成も上昇した。
 2つの世界大戦の衝撃によって,状況は一変した。

 1947年になると,80代や90代で亡くなった人の資産額は,50代の平均資産の62%しかない。他の年代も皆そうだ。
 こうした変化はひとえに両世界大戦がもたらした衝撃によるものだった。

 第2次世界大戦中に,高齢者だった人は,資産を戦時国債で持っていて,戦後のインフレーションで資産価値の目減りを経験した。
 そうした人たちは,資産を回復する間もないまま,僅かな資産しか残さずにこの世を去った。
 1950〜60年頃の相続資産の減少の一端は,このことに原因がある。 歴史的に見て,この時期は唯一,例外的に,高齢者が中年の人たちよりも相対的に貧しかった時代だったと言える。

 1940年頃 まだ40代だった人たちは,戦争で多くを失ったが,その後資産を挽回するための時間的余裕があった。戦後もしくは戦争中に,上手く立ち回って資産の再構築を図った人もいた。だが,より高齢の人たちにとって,それは叶わなかった。
 これが,二度の世界大戦の衝撃が,年齢ごとの資産構成を激減させた理由だ。

 1947年以降,高齢者が相対的に多くの資産を持つ時代が,徐々に舞い戻って来た。

 2010年の80代の人々の平均は134%となっている。50代の人々よりも34%多く資産を保有していることを意味している。
 しかもこれは,既に資産の半分を生前贈与した残りだということだ。
 生前贈与は,ここには含まれてはいない。
 生前贈与分を入れると,120%や130%などではなく,200%を超えるだろう。
 戦後の資産の量的な回復と高齢化の凄まじさは,1人あたりの相続資産の額だけを見ていても分からない。


 相続資産の大規模な拡大と,高齢化が絡み合って進んできたことが 重要だ。 フランスでもそうだが,本当に裕福な人は高齢者が多いよね。 そうした人々は莫大な資産を相続した人もいるし,そうでない人もいる。 今,何も相続せず自力で家を買うというのは,よほどいい給料を貰っていない限り大変だ。
 相続資産の重要性が,再び増してきたと言える。


❏ 総資産に占める相続資産

 下図は,フランスの総資産に占める相続資産の割合だ。

(図表)総資産に対する相続資産のシェア(割合)
画像


 19世紀に,総資産に占める相続資産の割合は,とても高い水準で,80〜90%だった。
 これが戦後,大幅に低下した。
 1970年でもまだ,総資産に占める相続の割合は,1940年代〜60年代までの状況を,引きずっていた。
 かなりのタイムラグがあったが,漸く,相続資産の総資産に占めるシェア(割合)が回復してきた。

 現在は,移行期とも言える時期だ。ベビー・ブームの世代が,あと10年か20年 (≒ 2030〜2040年頃)で残念ながら亡くなると 相続資産の割合はかなりの大きさになったりするからだ。
 資産の蓄積には時間がかかるので,長期間の時間軸を持って観測しなければならない。

 このことは,相続税の問題を考えるときに重要だ。
 相続税に対する人々の考え方は,二世代,三世代で,大きく変わる。親たちが一生懸命働いて蓄えた資産であれば,それに対して多額の税金をかけることは好ましくないと考えるだろう。親たちは,資産を相続して得たわけではないし,既に沢山の所得税も払っている,とね。

 では,その資産が相続されたときに,どの程度,課税されるべきか。 高い相続税を拒否する人もいるが,同じ家族が二世代にわたってその資産を保有すると,それに対する多少の課税はやむを得ないと見做される。
 資産に対する考え方は,第一世代,第二世代,第三世代と下る中で変化する。 資産に対する考え方が変わるためには,長い時間がかかるものだ。

 相続資産の額は,ほぼ19世紀の水準に戻りつつあるが,相続資産の上位集中は,19世紀のレヴェルに達していない。
 現在でも,数10万ユーロから100万ユーロ(≒1億3千万円)くらいの資産を相続する人々が,沢山いる。結構な金額だが,その程度の資産では仕事を辞められるほどではない。 辞めたところで生活はかなり苦しくなるだろう。それなりの金額ではあるけどね。


❏ 不平等の新しい形態

 19世紀には,仕事をしなくていいほどの相続資産を受け継ぐ金持ちは,極少数だった。今は,それなりの額を多くの人々が相続するという時代で,そこがかつてと大きく違う点だ。
 これは,今日の格差が ある意味で弱くなったと言えるが,別の意味では,もっと強くなっている。
 いわば,不平等の新しい形態だ。
 つまり,能力によって相続資産を築いた層が広がっているが,別の面では,その対立がより一層激しくなっている。


 これがどうなるかを簡単に見るために,私が本の中で 「ラスティニャックのジレンマ」と呼んだものを説明する。
 それは,資産最上位 1%の職業に就くか,資産最上位1%の配偶者を得るかによって,どう生活に差が生まれるかという比較だ。


(図表)遺産相続者と賃金労働者の生活水準比較
下位50%の平均賃金を 1とした場合
縦軸 % 0〜30%  横軸 生まれた年 1790〜2030年

黄色 最上位 1%の相続者の生活水準
緑色  最上位 1%の労働者の生活水準
画像


 19世紀には,その人の生活水準が,平均的な生活水準の何倍になるかという物差しがあった。
 それによると,所得最上位1%の職業に就いた場合の生活水準は,平均のおよそ10倍だった。
 不平等は,当時も今もあまり差がないので,労働所得だけを見ると,違いは少ない。
 最上位1%の賃金は,現在,総賃金の5%〜6%なので,平均賃金の約10倍から12倍になる。


 もしも,相続資産の最上位1%ということになると,巨額の資産を自分の家族もしくは配偶者の家族から受け取ることになる。
 だから,最上位 1%の資産家を配偶者にすることこそが,19世紀の時代,支配的な戦略だった。
 これはバルザックの『ゴリオ爺さん』を読んだ人には分かると思うが,ヴォートランという男が,ラスティニャックという青年に吹き込んだ戦略だ。 良い職に就くよりも,資産を持った伴侶を探せということだ。当時は確かにそうだった。バルザックは統計データなんて持っていたわけではないが,それは誰もが知っている当たり前のことだった。


☆ オノレ・ド・バルザック著 『ゴリオ爺さん』 1835年
 上流階級に憧れを抱く青年ラスティニャックが男爵夫人に近づき愛人になることで立身出世を図ろうとするエピソードを含む物語

http://4472752.at.webry.info/201501/article_13.html
2015/01/13 19:42
労働所得の高い不平等化
トマ・ピケティ 『21世紀の資本』 第1回(1/3)


 いつ生まれたかによっても違ってくる。
 もしも1910年,20年,30年あるいは40年に生まれていたとしたら,また,違ってくる。
 その時代の人々は,1950年代から70年代に相続を受ける世代なので,受け継ぐ資産がほとんどなかった。
 こんなことは歴史上初めてのことだったかも知れない。

 彼らにとっては,良い結婚相手よりも良い仕事を探すことのほうが,生活のためには重要だった。
 道徳的な判断は別にして,生活水準の点だけで言うと 良い大学を出て最上位1%の職業に就くことが良しとされた。私は1970年代生まれだから,それが良く分かる。
 だけど皆(受講中の学生たち)は 80年代から90年代生まれだろうから,どっちが有利かは微妙なので,判断は難しい。

< 続く >

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