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zoom RSS なぜ,きわめて最上位層への所得集中による不平等は起こるのか

<<   作成日時 : 2015/01/28 12:40   >>

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トマ・ピケティ 『 21世紀の資本 』
第3回 「不平等と教育格差」労働所得の不平等はなぜ起きるのか(3/3)

https://www.youtube.com/watch?v=kmypJpjJatY
49:27

❏ 極めて最上位層のみに集中する総所得

 所得下位層の賃金について見てきたが,次に所得上位層の賃金に目を向けよう。
 所得上位層内部の不平等の推移は,限界生産力理論や市場競争モデルでは,説明がつかない。
 また,教育と技術の追いかけっこの理論でも,なぜ,平等だった分配が,極めて上位への所得集中によって不平等になったのか。またそれがなぜ,特定の国に集中して起こっているのかが,理解できない。

 グローバリゼイションや情報技術の普及といった要因で 不平等化を説明する方法もあるが,それらの要因は,アメリカやイギリスだけでなく,日本やドイツ,スウェーデン,フランスでも起きている共通の現象だ。
 なぜ,ある国では不平等が急速に強まり,他の国ではそうでないのかということの理由にならない。

 アメリカを見ると,教育による要因では説明できない最大の問題は,所得格差のほとんどが,最上位層 1%やその上の 0.1%への所得集中によって起きているということだ。
 彼らの中では特に教育に大きな差があるわけではないのになぜか 格差が拡大している。このことは,教育や技能の需要の供給という要因では,到底説明できない。
 所得上位層への所得の集中を説明するには,完全競争のモデルではなく,不完全競争のモデルで考える必要がある。

 完全競争モデルでは,CEO最高経営責任者の交渉力が物を言う。
 もしもあなたが10万人の従業員を抱える大企業のトップだとすると,あなたの限界生産力,つまりあなたがその企業にもたらした価値がどれ程かを推し量るのは困難だ。あなたは部下の支えなしには,経営をやって行けなかったかも知れない。あなたが付け加えた価値,あるいは追加的生産物がどれだけかは,正確には分からない。 企業の規模が大きい場合は特に,限界生産力理論は通用しない。大企業で多くの従業員が働いている状況では,成果が誰のものか分からなくなるからだ。 逆に小企業や零細企業の単純な業務などでは,限界生産力理論がある程度妥当する場合がある。工場のラインにもう1人加えるかどうか,ハンバーガー ・ ショップでもう1人フロアの担当を増やすかといったときには,それでどれだけ客や儲けが増えるか計測も可能だ。 人を増やしたこととその効果との,およその結び付きは分かる。
 しかし,大企業のCEOの限界生産性はまったく不透明だ。あるCEOの年収が100万ドルではなく1千万ドルであるとき,その1千万ドルの限界生産物を彼が付け加えたからだとするのは,余りにも短絡的だ。
 経済学の標準的なモデルが想定してきた限界生産性という理論は,非常に短絡的だと思う。
 CEOは抛っておくと限界生産物つまり自分が付け加えた価値以上の報酬を引き出そうとするだろう。特に,高額所得に対する税率が低い場合には,その誘惑に駆られる傾向がある。これはとても重要なポイントだ。

完全競争 自由競争によって市場が効率的で公正な分配をもたらす
不完全競争 競争が制限され市場が効率的で公平な分配をもたらさない


 1970年代 80年代以降,高額所得に対する税率を最も大幅に引き下げた国は,アメリカであり,次にイギリスだ。日本やドイツ,フランスではそれほどではなかった。
 アメリカやイギリスに最上位層への所得集中が強まった理由の多くは,これらの国が最高税率を引き下げたことで説明できるだろう。

(図表 フランスとアメリカの最高税率)
画像


 この問題について,詳しくはサエズ Saezスタンチェヴァ Stanchevaと,そして私 Pikettyが書いた論文がある。この論文で私たちはまず,企業重役の交渉力と,彼らが重役報酬を引き上げるインセンティヴ(動機)を,単純な理論モデルにした。そして,アメリカ,ヨーロッパ,日本の上場企業のデータを当てはめて実証研究をやってみた。 さらに,経営トップの報酬と,その企業の実際の収益の変化の相関関係を推計してみたのだ。

 まず私たちは,個々の企業の努力とは無関係に業界全体が潤う 棚牡丹利益を「幸運による利益」。 その企業独自の努力で得た利益を「幸運によらない利益」という,2つの区分を用いた。
 例えば石油業界が,石油価格の上昇によって業界全体が儲かるようなケースは「幸運による利益」だ。このような業界共通の要因で上がった収益に対しては,重役報酬は「幸運によらない利益」の場合と比べて,さほど上がらなくてもいいはずだ。しかし実際は,「幸運による利益」に対しても大幅な報酬の引き上げが見られた。つまり報酬と重役の働きとは必ずしも結びついていない。

 私たちのもう1つの結論は,重役報酬の極端な引き上げが起こっているのは,特に高額所得に対する最高税率を引き下げた国だということだ。
 言いかえれば,1千万ドル受け取っても,1970年代までのアメリカのように税率が80%だと,その8割つまり800万ドルが税金で取られることになる。 CEOも部下も,報酬を引き上げてくれなくても良い,と言うようになる。
 しかし,レーガン政権時代に最高税率が大幅に引き下げられ,状況は一変した。
 企業のトップが自分の都合の良い部下を重役に選び,高い報酬を決めさせるという誘惑が一気に強まった。

 私たちの実証研究やデータは不十分ながらも,高額報酬がその重役の能力で決まるとする限界生産力理論の説明よりもはるかに妥当な解釈を与えていると思う。

 コーポレート・ガヴァナンスつまり企業経営の問題か,それとも,教育の問題か,という二者択一ではなく,どちらの要因も相俟っているところが重要だ。

所得最上位層にとっては,
教育の違いは,さほど重要ではない。
しかし,所得中位層や所得下位層にとって,
教育は重要なカギとなる。
最下位の貧しい人々にとっては,
最低賃金という制度的要因が重要になってくる。


 まとめると,アメリカの賃金格差の拡大は,技能の格差と労働市場の制度的要因の両方が関連していて,さらにコーポレート・ガヴァナンスの問題も大きく影響しているということになる。

コーポレート・ガヴァナンス corporate governance (企業統治)
企業の意思決定は,スティクホルダー(利害関係者:株主,経営者,従業員,取引先,顧客・消費者など)が企業の経営に係わって,チェック機能(監査,情報公開など)を果たし,経営の独占的支配,反社会的行動をコントロールすべきという意を含む。アメリカでは,機関投資家の権限強化が進み,経営者に対する株主の支配権が強い。


 ではこのスライドを見てみよう。
 ご覧のように,格差はアメリカとイギリスで大きく,それにカナダが続いている。
 フランスやドイツ,スェーデン,そして日本の推移はよく似ている。 格差は維持されているか,若干拡大の兆しがあるという程度だ。

 私がフランスとアメリカを対比するのは,フランスがこれら同じような動きをしている国々を代表しているからだ。
 それに対してアメリカは,アングロサクソン諸国を代表している。
 しかし,同じアングロサクソンでも,アメリカとイギリスは極端で,カナダやオーストラリアはそれほどでもない。
 アメリカでは能力主義が行きわたっているために,経済制度や社会的規範がそれを許しているのだろうか。
 アメリカは,どの国よりも大きな格差を受け入れやすいのかも知れない。
(図表 最上位1%の総所得の占有率 アメリカ型)
アメリカ,イギリス,カナダ,オーストラリア
アメリカ型 1980年代以降 上位層への所得集中が大きくなっている

画像

(図表 最上位1%の総所得の占有率 フランス型)
ドイツ,日本,フランス,スウェーデン
フランス型 1940年代以降 所得格差の大きさにあまり変化がない

画像

(図表 最上位1%の総所得の占有率 ・アメリカ型と フランス型の比較)
画像

❏ 途上国における最上位1%の総所得の占有率

 続いて,世界所得データベースで,途上国の動向を見よう。途上国については残念ながら先進国ほど歴史的な研究はないし,データも極めて不完全だ。
 しかし,長期的な変化の新しいパターンを,どうにか見てとることができる。
 特に興味深いのは,格差の規模が先進国と良く似ている国があるということだ。
 インド,インドネシア,南アフリカなどでは,上位1%が所得の15〜20%を占めているが,それは,先進国の中位レヴェルの水準と同じだ。でも,アメリカほどではない。

コロンビア,南アフリカ,アルゼンチン,インド,インドネシア,中国
(図表 最上位1%の総所得の
占有率)

画像

 ここには,インド,南アフリカ,インドネシア,アルゼンチン,中国,コロンビアといった 国々が挙げられている。
 いずれの国も近年になるに従って,先進国レヴェルの格差に近付きつつある。
 しかし,コロンビアを除いては,その格差はアメリカほどではない。

 旧植民地の不平等の問題については,様々な研究が現在進行中だ。  特にアフリカの旧イギリス植民地のデータ。東南アジアの旧フランス領。ヴェトナム,ラオス,カンボジアのデータ。そして北アフリカや西アフリカのデータが集められている。
 1つの問題は,植民地時代に不平等がどの程度の水準であったかということだ。 それは,こんにちの比ではなかった。 ごく僅かな植民地のエリートが,信じられないほどの所得と資産を所有していたということだ。進行中の研究ではあるが,有望な研究領域であることは確かだ。

 中国は特殊で,公にされた数値から見ると不平等の値は,信じられないほど低い。中国では,税務統計がほとんど公表されていない。極端に不透明だ。この点を突破する人が皆さんの中から現れることを期待したい。
 中国のいくつかの大学が集めた,国の資産についての新しい調査があり,それによると不平等は公式統計よりかなり高く,しかも上昇しつつあるという結果が出ている。
 次回,資産格差の話しをするときに,このことにまた触れよう。

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