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zoom RSS 所得下位層が沈み込んだアメリカ,最低賃金が最安の日本

<<   作成日時 : 2015/01/28 01:44   >>

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☆ 日本の最低賃金は先進国では最低で,アメリカの時給7.2 ドルより安い。
 時給780円 ≒ 6.5ドル
 by Rreina 1月29日 11:55 追記 ☆


トマ・ピケティ 『 21世紀の資本 』
第3回 「不平等と教育格差」労働所得の不平等はなぜ起きるのか(2/3)

https://www.youtube.com/watch?v=kmypJpjJatY
49:27

❏ 不平等を生む 「 労働市場における制度的要因 」

 不平等を考えるには,他にも様々な重要な要素がある。
 給与体系や最低賃金制度,経営者の高額報酬の問題など,労働市場における制度的要因と呼ばれているものだ。


Minimum Wage  最低額賃金 <各国の最低賃金制度>
Maximum Wage 最高額賃金 <一部企業の高額報酬>


 最低賃金制度や,経営者の高額報酬はどのように決まっていくのか。
 一般的には賃金は,労働者の限界生産性に等しくなる。
 つまり,個々の労働者が生産物に付け加えた付加価値の大きさで決まると考えられてきた。
 これを「限界生産力理論 marginal productivity theory」と呼ぶ。
 労働を,高い技能と低い技能の2種類に分け,技能の高い労働者はその熟練の分高い報酬を得る。技能の低い労働者の賃金はその分低くなるという考え方だ。
 しかしこれは,現実離れした甘い想定だ。 なぜなら往々にして個人の生産性というものを正確に測定することは難しいからだ。

 正当な理由もなく生産性が低いと言われて,賃金が削られるのは誰でも厭だろう。上司が秘書に対して「お前は態度悪いから明日から賃金半分だ。とっととコーヒー持って来い」などと言われたら,堪らない。
 なぜこのことが重要なのか。
 これは,経済学で言う「ホールド・アップ問題」に係わるからだ。
 「ホールド・アップ問題」とは,雇用契約に書いていないなどの不備を利用して無理難題を押し付けるものだ。

 私の秘書の例で言うと,我がパリ経済学校で良き秘書であるためにはこの学校独特の細かいことをワンサカ覚えなければならない。<教室・笑>
 高等師範学校にしろ社会科学高等研究院にしろ,ほら,お家の事情というものがあるからね。だから,秘書がうちの学校について沢山のことを身に付けたのに,明日から賃金半分と言われたからといって,そう簡単に別のところに移るわけにはいかない。そんなことなら,そもそも,その秘書は身を入れて仕事を覚えようとはしないだろう。いつそんなことを言われるのか分からないのだから,技能を身に付ける意味がないわけだ。
 技能には一般的なものもあれば,個々の職場に応じた特殊なものもある。 他の職場では通用しないその職場独特の技能のニーズが高いと,「ホールド・アップ問題」の可能性も高くなる。
 だから,雇用契約では,あらかじめ賃金だけではなく,労働条件を細部まで取り交わしておくことが大切だ。

 「ホールド・アップ問題」の極端なケースは,雇用主が労働者を雇う場合,「買手独占」にある状態だ。
 「買手独占」とは,ある商品の売り手は多数いるのに,買手がただ1社だけで,買手が好きに買い叩ける状態のことだ。
 労働市場の場合,地域によっては人を雇う会社が1社だけということがある。ある地域で,労働者が他の地域に簡単には移住できない状況にあるとしよう。そうすると職場を変えることが難しくなるので,1つのところで我慢して働かなければならない。 そうなると,企業は賃金を抑えにかかってくる。 場合によっては賃金が競争的な水準を下回るということが起きてしまう。

 こうしたケースに対処する政策として,法律によって最低賃金を引き上げるという方法がある。


労働者の限界生産性
J.B.クラーク 限界生産力説 marginal productivity theory
 労働,土地,資本などの生産要素を使って生産するとき,他の要素の量を一定にして生産要素をもう1単位だけ増加することにより可能になる生産物の増加量を,その生産要素の限界生産力と呼ぶ。
 資本を一定にしておいて,労働量を1単位ずつ増すごとに労働の生産物の増分すなわち労働の限界生産物は減少する。
賃金の限界生産力説
 一定量の労働力の最終単位の限界生産力が一般的賃金水準を決定するという説。
ホールド・アップ問題 hold-up problem
 いちど実施されると,元に戻すのが難しく,しかも交渉の相手の強さを増幅させるような投資に関して発生する問題。 また,労働者に対して優位である雇用主が,契約の不備などに付け込んで無理難題を押しつける問題


❏  フランスとアメリカの最低賃金の比較

 1990年代の初め,アメリカで最低賃金がとても低いことが問題となり,大きな論争となった。
 デービッド・カードDavid Card とアラン・クルーガーAlan Bennett Krueger という2人の労働経済学者が提起した。
 それまで最低賃金が引き上げられると,企業は人を雇う意欲を失い,失業が増えると言って最低賃金の引き上げに反対していた。
 カードとクルーガーは,最低賃金の引き上げはむしろ労働供給を高め雇用を拡大する可能性があると主張した。
 アメリカには連邦が定める最低賃金と各州が独自に定めた最低賃金の2つの制度がある。彼らは,ニュージャージー州とニューヨーク州を比較し,最低賃金を引き上げたニュージャージー州で雇用が増加した事実を指摘した。

 彼らが提起した解釈は,最低賃金を引き上げると雇用が減るという通説とは,まったく 異なっていた。
 最低賃金が低く,「買手独占」の状態では,最低賃金の引き上げが,むしろ労働供給を高める積極的な効果があるというものだ。
 最低賃金を例えば3倍にするなどの法外な引き上げや,元々の最低賃金が既に高いのにさらに引き上げるというのであれば,逆に失業率が増えたかもしれない。
 しかし,このことによって,ある程度の水準の最低賃金や,ある程度 固定的な給与体系が有効であるということが,彼らの議論によって示されたというわけだ。少し詳しく見てみる。


最低賃金の国際比較 (2014)
 国名 最低賃金(時給) 導入年
アメリカ $7.2(≒¥865)1933年
フランス $9.5(≒¥1324)1950年《$10.5 》
イギリス £6.5(≒\1157)1999年《$ 9.6 》
日 本 ¥780(全国平均額)1959年$ 6.5
(※ 2014年10月の為替レートで円換算)
《2015年1月ドル換算》
☆ 日本の最低賃金がこの中で最低で,時給6.5ドル
 by Rreina 1月29日 11:55 追記 ☆


 最低賃金の歴史は国によって大きく異なることが分かる。
 この点でアメリカは大変興味深い。
 アメリカは 1933年に世界で初めて最低賃金を導入した国だ。 しかしその後の最低賃金の上げ幅は,僅かだった。
 現在でも最低賃金は,僅か時給7.2ドルで,フランスと比べてかなり低い。
 オバマ大統領は,2015年から16年までに時給 9ドルまで引き上げたいと言っているが,そのように引き上げられる可能性は低い。 フランスは1950年に最低賃金制度を導入したが,現在9.5ユーロほどだ。


図表 フランスとアメリカの最低賃金の比較
折れ線グラフ 黄色;フランス 青 ;アメリカ
左の縦軸;ユーロ 右の縦軸;ドル(いずれも時給)
€1=$1.2 購買力平価で換算

画像

 このグラフは,フランスとアメリカの最低賃金の推移の比較だ。
 グラフの線は,黄色がフランス,青がアメリカ。左の縦軸はユーロ,右の縦軸はドル。いずれも時給だ。

 これは「購買力平価」と言って,アメリカとフランス,それぞれの物価に換算して,およその貨幣価値が等しくなるように計算してある。

 それによると,長期の為替レートの換算率は,およそ1ユーロ≒1.2ドルだ。
 為替レートは2014年11月現在,1ユーロ≒1.3〜1.35ドルだが,購買力平価では,1.2ドルだ。
 1.2ドルで計算すると,フランスの時給9.5ユーロは,11ドル。
 アメリカは 7ドルなのに対してフランスは11ドルだから,フランスの最低賃金のほうが圧倒的に高いことが分かる。

 注意すべきは,フランスでは雇用主が高い社会保障税を従業員のために支払っていて,従業員も給与税という社会保障税を支払う。それが,総賃金の40%にも及ぶ。
 低所得者の社会保障税は,税率が軽減され20%以下だが,もしも 社会保障税を計算に入れたとすると,アメリカの実質的な最低賃金はフランスよりもっと低くなる。
 なぜなら,アメリカの低所得者に対する社会保障税の割合は10%ほど
だからだ。

 両国の最低賃金の伸びを比較して驚くことは,アメリカのほうがフランスを大きく上回っていたことだ。
 1950年代60年代には,フランスよりもアメリカの格差が小さかった。

 歴史的に見ると変化はとても大きい。
 よく人々は,フランスは常に平等な国で アメリカは不平等な国だと思いがちだが,それは大きな間違いだ。どの国も常に同じ状態ということはない。歴史的,文化的,経済的理由からそれぞれに変化する。
 アメリカの最低賃金が長らく他の国に比べて高い水準だったことは,とても印象的だ。
 なぜ,このように変わったのか。
 1つには,フランスが法律上の義務から,毎年,最低賃金のインフレ調整をして,物価が上昇するたびに 少しずつ最低賃金を引き上げていったことと関連している。 アメリカには同じような法律がない。


❏ 不平等が拡大したアメリカ。所得上位層がますます豊かになっているだけではなく,所得下位層が沈み込んだ

 1980年代,アメリカはレーガン政権の時代だった。
 彼の経済政策いわゆる「レーガノミクス」の下で,最低賃金は抑えられ,インフレで その実質価値はどんどん目減りした。

 2013年の値だが,インフレの効果が最低賃金の購買力を蝕んでいることが分かる。
 現在,アメリカの最低賃金の購買力は,何と1960年代の水準をも下回っている。
 つまり半世紀の間,最低賃金は実質的に低下し続けてきた。
 60年代は失業率も今より低く,最低賃金は高かった。
 今は逆で,失業率は高く,最低賃金は低い。


 このことはアメリ力の不平等の拡大について,1つの見方を与えてくれる
 つまり,所得上位層がますます豊かになっているだけではなく,所得下位層か沈み込んだということだ。
 下位層の所得が増えていれば,格差があっても大きな問題ではなかったかも知れない。
 

 アメリカでは貧しい人々が,色んな意味で落ち込んでいる。
 賃金は実質的に下がり,最低賃金が50年前と同水準かそれ以下であるということは驚くべきことだ。

 最低賃金で暮らしている人は,その他の人々と比べても とても貧しい。
 だからと言って最低賃金を3倍にしなさいと言っているのではない。7.2ドルの最低賃金を20ドルにすると,失業が増えるだろう。これは間違った解決策だ。
 だが,さしあたり最低賃金を 9ドルから 10ドルに引き上げるというのは,実行可能な政策だと思う。その程度の引き上げであれば,失業が増えるということもないだろう。

 大事なことは,最低賃金を上げるのと同時に,所得下位50%の人々が,高い技能の職業に従事し,高い賃金で働けるよう,教育に投資することだ。
 ただ単に最低賃金を上げるだけでは,失業が増えるので,高い技能の労働に就けるだけの技能を磨かないとだめだ。

 最低賃金の引き上げと,教育や職業訓練を
 同時に推し進める政策が必要だ

 と私は思う。


❏ 最低賃金制度

 フランスは大分様子が違っている。
 最低賃金は,社会保障税も考え合わせると,フランス経済の生産性から見て,アメリカよりかなり高い。
 だからフランスでは,最低賃金を引き上げるべきか否かという問題への答えも,当然ながら違ってくる。引き上げる水準にもよるが,最低賃金を引き上げるべきだとは必ずしも言えない状況にある。

 ヨーロッパではいくつかの国で現在,最低賃金の導入が検討されていて,それに関する議論が高まりつつある。
 実は興味深いことに,イギリスでは1999年まで,全国的な最低賃金制度がなかった。
 ドイツでは,全国的制度が今でも存在せず,現在,メルケル政権は 新たな法律を作り,最低賃金制度を導入する計画を進めている。時給8.5ユーロ(≒¥1130)で2015年から 16年にかけて段階的に導入されるそうだ。いずれにしても,現在は全国的な最低賃金制度が ない。
 北欧諸国は 全国的な最低賃金制度がないが,労働組合と経営者団体の交渉で決まった労働協約による給与体系を守る義務がある。

 この20年間,イギリスやドイツで全国的な最低賃金の導入が議論されるようになった1つの理由は,1970年代80年代までは,組合が賃金や給与体系の交渉を行なっていたのに対して,今は組合が担っていた役割の一部を最低賃金制度が代替するという動きなのかも知れない。
 特にサービス業では労働者の組織力が弱いため,全国的な最低賃金の役割が求められる。
ドイツやイギリスの導入の理由もこの辺りにあるのではないだろうか。

 最低賃金制度には,適切な水準がどこかという問題がある。
 それは,税制や教育システムによっても異なることについて述べてきた。
 フランスのように低所得者に対する税率が高く,職業訓練の制度も貧弱であれば,高い最低賃金が失業をもたらす可能性は高くなる。
 逆に,低所得者に対する社会保障税を軽減し,職業訓練制度を改善できれば,最低賃金の引上げは容易になる。
最低賃金について何か質問は?


【学生】
 最低賃金制度のない国と言われたが,非公式の制度は,どうでしょうか。非公式のものも含めて,まったくないのでしょうか。

【ピケティ教授
 それは業種によりけりだ。製造業などでは,事実上の最低賃金制度がある国が多い。
 しかし,サービス業では,非公式な制度すらなく,ドイツでも非常に低い賃金だ。 特に家内サービス労働や小売業,飲食業などは低賃金だ。全国的な最低賃金制度ができれば,あらゆる業種を網羅するようになるので,その点が違ってくるだろう。
 北欧諸国では,労働協約制度がある。事実上の最低賃金制度の機能を果たしていて,一部の例外を除いて,ほぼすべての労働者をカヴァしている。


< 続く >

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