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zoom RSS 教育の機会均等については,どの国も偽善的な面が多々ある

<<   作成日時 : 2015/01/27 00:31   >>

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トマ・ピケティ 『 21世紀の資本 』
第3回 「不平等と教育格差」労働所得の不平等はなぜ起きるのか(1/3)

https://www.youtube.com/watch?v=kmypJpjJatY
49:27

教育格差
近代以降,技術革新に伴い労働者に求められる技能が高まった。高技能労働者の育成と教育の普及が不可欠だ。だが,教育に因る技能のレヴェルの違いが,さらに所得格差を広げる。


❏ 教育と技術革新の追いかけっこの理論

 教育とは,言い換えれば技能の供給であり,どれだけの人がどの程度の教育を受けて新たな労働市場に参入するかということだ。
 社会の技術革新はそれに応じて必要となる技能の需要に変化をもたらす。技術の進歩が速いと,コンピュータのエンジニアや医師など高度な技能を持つ労働者への需要が高まる。
 基本的な理論は極めて単純なものだ。
 まず技能の高い労働者(高賃金)と技能の低い労働者(低賃金)の 2つの労働者のタイプを想定してみよう。
 現実には2つ以上の無数の労働のタイプがあるが,ここでは2つの労働のモデルで基本的なイメージを捉えていく。

 賃金の不平等の原因は,2つの労働のタイプの技能の差にあり,それは,教育への投資に左右されている。
 このモデルを,「教育と技術革新の追いかけっこの理論」と私たちは呼んでいる。
 つまり,技術革新に因る高い技能の需要の変化に,教育が追いつけるかどうか,その速さが問題だ。
 例えばコンピュータや医療の分野で,高い技能の需要が増えた場合,そうしたエンジニアや医師をどれだけ供給できるか,といったことだ。

価格の低下:供給>需要 (供給が需要を上回ると値段が下がる≒ものが余ると安くなる)

 高い技能の労働者,例えばコンピュータのエンジニアの供給がその需要に追いつけば,高技能労働者の価値は低下して,不平等は縮小する。
 逆に高い技能の供給が需要の増加に追いつかないと不平等が拡大することになる。

 教育や技能だけで
 所得不平等のすべてが,
 説明できるわけではない。
 賃金について考える上では,
 技能を高めることだけでなく,
 賃金に係わる制度も重要だ。


 しかし,この「教育と技術革新の追いかけっこの理論」は,かなりの部分を説明できる有力な仮説だと言える。

クラウディア・ゴーディン & ローレンツ・カッツ 著
The Race between Education and Technology


 詳しいことはハーヴァード大学のゴーディンとカッツの著作『 教育と技術の追いかけっこ理論 』に,興味深いデータが収められている。

 ゴーディンは,ハーヴァード大学の労働経済学および歴史学の優れた研究者で,カッツはクリントン政権時代,労働省のチーフ・エコノミストだった。
 特に彼らの研究で興味深いのは,20世紀を通じて労働者の技能の差がどのように変化し,それがどう賃金の格差と結びついたかを,10年毎に区切って比較した点だ。
 彼らは,技能の高い労働者の増加率を,大学教育修了者がどれだけ増えたかで測っていく。
 アメリカの場合,学部3年まで修了した学生を,大学教育修了者と見做している。
 世代毎の,大学教育修了者の比率は,戦後ずっと増え続け,1950年代から70年代は,増加率がとても高い。
 しかし1980年代以降,技能労働者の増加率は停滞し,むしろ落ちてきている。
 特に,所得の低い層において,大学進学者の停滞傾向が明らかで,下位所得層50%の両親を持つ子どもの大学進学率は,この30年間増えていない。
 逆に,上位所得層では,ほぼすべての子どもが大学に進学している状況だ。これはとても衝撃的なリポートだ。

 つまり,大学教育を受ける人の数が限界に達して増加せず,その中で,所得不平等と 教育格差が ともに拡大しているということだ。
 ゴーディンとカッツを始め,この現象に着目した大方の研究者の意見は一致している。
 こうした教育の格差によるスキル・プレミアム,つまり高い技能による割増賃金の上昇が,賃金格差の主な原因だということだ。
 これは飽くまで部分的にのみ正しい説明に過ぎないと考えている。
 アメリカの所得格差は,ヨーロッパや日本よりもはるかに大きい。
 原因の一部は,教育と技能労働の格差にある。

 賃金格差を是正するには,
 教育への投資や,
 高等教育を受ける機会均等を広げることが
 重要だ。


❏ 世界の有名大学の学費

 アメリカの大学ではその高い授業料が良く話題になる。ハーヴァード大学で学ぶ費用は年間5万ドルにもなる。こんなに学費が高いということは大学に進学するのは難しいということを意味する。
 北欧やドイツの大学を見ると,授業料は無償だし,フランスは無償ではないが,ほぼゼロに近い。
 このように経済発展を遂げた先進国でも国ごとに違いがある。


世界の有名大学の授業料比較(2015年1月)
$1≒¥120  € 1≒¥133
ハーヴァード大学
 $43,938(≒527万円) 
 教科書代,学生寮の費用を含む
 世帯収入が$6万5千(≒780万円)以下は,授業料無料

オックスフォード大学
英国およびEU内の学生 € 9,000(≒120万円) 
留 学 生   € 14,825 〜 21,855 (≒197万〜290万円)

パリ政治学院
EU内の学生 € 0 〜 9,940(≒0〜132万円)
留 学 生   € 9,940 (≒132万円)

ベルリン自由大学
無料
※登録費等 € 214,94(≒2万8,600円)

東京大学
学部学生の授業料のみ
¥535,800(≒ $4,465 )(≒ € 4,030 )


❢ なぜか ❢画面上に日本語で現れる「世界の有名大学の授業料比較」
(※ 2015年1月の為替レートで換算) とあるが
どういうことか,1ユーロ190円で換算してある。
凡ミスなら,次回に訂正するだろうけれど。
これは,現在1月26日の為替レート133円で再計算してメモしました。
by Reina


 高等教育を受けるために,学費がゼロか 5万ドルも払うかでは大違いだ。 もちろん,その違いで全てが説明できるわけではないが,少なくともアメリカがヨーロッパや日本に比べて賃金格差が大きい理由の一部であることに異論はないだろう。

 例えばフランスでは,賃金の格差が比較的少なかった。それは,技能のレヴェルが技術革新による需要とほぼ同じ速さで上昇したことを意味する。
 100年前のフランスでは,高校に行く人は ほとんどいなかった。 行ったのはごく僅かな人たちで,大学進学者など,ごく稀だった。 今は大学院に行って博士号を取る人も大勢いる。昔なら高校までだった人も 今は大学へ行き,中学校までだった人が 高校へ行く。
 スキルつまり技能の分布は上にシフトし,技能への需要も上にシフトした。この両方がバランス良く上昇したことが,賃金の格差が拡大しなかったことの説明になる。

 不平等が是正されないのは,教育制度の失敗からだと言う人がいるが,それは不平等の構造が全体として上にシフトしただけだ。
 皆が同じ比率で持ち上がっているので,あなたの上には相変わらず同じだけの人たちが居座っているというわけだ。

 しかし少なくとも,
 不平等の拡大を抑えたということ自体が,
 教育の成果だとも言える。


 100年前のフランスのように,中学校へも行かない人たちが人口の半分であるとすると,労働市場の格差は今よりはるかに大きかっただろうし,下位所得層の賃金は今よりはるかに低かっただろう。
 そこで無理に賃金を引き上げると,企業は低い技能の労働にも高い賃金を払うことになるので,採用をためらい,失業率が高まったかも知れない。

 政策的優先順位を間違うと
 格差を広げることにもなる
ということだ。


❏ 教育の機会均等の理念と矛盾する「親は所得上位層1〜2%」

 いずれにせよ,「教育と技術の追いかけっこの理論」によれば,重視すべきは,高い技能を習得するための教育を誰もが平等に受けられないという問題だ

 世界的な規模で行なわれるPISAという学習到達度調査がある。経済協力開発機構OECDが,加盟国の教育達成レヴェルを比較するために行なっている大規模な試験のことだ。
 PISA 国際学習到達度調査:世界65の国と地域の15歳以上生徒を対象

 その結果が報道される度に,数学や文章力そして問題解決能力など国同士の比較が話題になる。フランスがドイツに負けたとか,あるいは日本と韓国が良い成績の場合もあればそうでない場合もあるというので毎年各国で大騒ぎだ。 この調査報告が大変注目されるのは,それなりに理由があると思う。教育というもののブラック・ボックスを開けるようでとても興味深いからだ。
 教育が成果を上げているか。数学力や問題解決力の成績にどのような意味があるのか。クラスを少人数にすることと,教師の能力を高めることのどちらを優先すべきか。あるいは,その両方とも行なうべきか。教育政策ごとの費用対効果はどうか。 成績の良い生徒と悪い生徒の混合クラスは効果的かどうか,など色んなことを考える上でとても重要な試みだと思う。
 この調査の結果から見ると,アメリカの教育における達成度の格差は 明確に強いとは言えない。15歳の生徒の数学の成績結果を見ると,むしろフランスのほうが成績の格差は大きい。 15歳だけを見ると,フランスは成績の上位と下位のバラツキがとても大きいのだ。それに対してアメリカは,さほどバラツキが大きくない。
 ということはアメリカでは,その次の段階つまり高等教育へのアクセスの格差がかなり強いと思われる。
 
 例えばハーヴァード大学の学生の親の平均所得は45万ドル(≒ 5,400万円)であり,これはアメリカの所得上位2%の平均所得と一致する。
 もちろん上位2%に入らない学生もいるがそれはごく僅かだ。上位2%内と言っても,もっと所得層の高い世帯の学生も大勢いる。 場合によっては年収40万ドル(≒4,800万円)どころか100万ドル(≒ 1億2千万円) 200万ドル(≒ 2億4千万円)だ。 試しに学生に豆粒を投げてみれば殆んど上位2%以内に当たるというわけだ。
 しかし,能力主義という建前や理念からすると,これは大きな問題だ能力主義を謳いながら,それが上辺だけだということは皆薄々感じているが,それにしても現実とのギャップが甚だしいと言わざるを得ない。

 パリ政治学院の学生について,同じ計算をしたらどうなるか。
 パリ政治学院を取り上げることに特に意味はない。別に この学校に恨みがあるわけではないから。 高等師範学校でも 経営大学院でも構わないが,パリ政治学院を例にとるのは,親の年収に応じて学費を支払う数少ない大学の1つで,その学費算定のために提出する親の所得の記録があるからだ。
 親の年収によって授業料を設定している。親の所得が1万2千ユーロ(≒160万円)までなら学費は無料だ。君たちのほうが詳しいと思うけれど。


【学生】
 1万5千ユーロ(≒199万5千円)です。

【ピケティ教授】
 1万5千ユーロ(≒199万5,000円)か。 何と言っても君たちは当事者だからね。
<教室内 ・ 笑>
 では,上位区分の所得はどれくらい?
【学生】
 1万5千ユーロ。

【ピケティ教授】
 いや,両親の所得だよ。

【学生】
 分かりません。

【ピケティ教授】
 およそ年収20万から25万ユーロ(=2660万〜3325万円)が,上位区分だ。
 パリ政治学院の学生は,皆がではないが大半が上位10%以上の所得層だ。
 私がこの数字を発表した後,パリ政治学院で講義をしたら,担当者がエラク怒っているので,私は「これは,あなた方自身が出したデータですよ。私はただそれを使っただけです」と答えたところ,その担当者は,「我々だって努力している。貧しい家庭の学生も受け入れている」と言ってきた。
 だから私は 「確かにそうかも知れませんが,貧困な学生は多くないじゃないですか。 大半は,上位10%どころか上位 1%,2%の家庭からですよ」 と言い返したよ。


【学生】
 ハーヴァード大学とパリ政治学院についてですが,そのデータには留学生は含まれているのでしょうか。両方の大学とも,留学生の比率が大きいと思うのですが。彼らはとても裕福な家庭の出身である場合が多いので,彼らを含めた数字だと事態はもっと深刻ではないか。

【ピケティ教授】
 そのとおり。この数字には留学生は含まれていない。留学生は裕福な家庭の出身である場合が多いので,彼らを含めると,学生は全体として上位7%から8%の所得層から来ているということになるだろう。
 
 しかし留学生については,親の所得が必ずしも分からない。
 EU域内からの学生はフランスと同じシステムで親の収入を大学に申告する。  
 しかし,EU域外の留学生の親の収入は分からない。 大半の留学生が所得上位層なのでそれを計算に入れると,上位10%より上がるだろうが,ハーヴァード大学の2%まではいかないだろう。アメリカの大学については,他にも面白い研究がある。
 例えば出身大学への寄付について調べた興味深い研究だ。 それによると大学に寄付をするタイミングは,自分の子どもが大学に入学する頃だという。これは所得上位2%の家庭の進学率の高さを説明する,もう1つのメカニズムかも知れない。
 だが,概してこうした問題については不透明だ。情報公開や,成績重視と一般には言われるが,ハーヴァード大学や イェール大学,あるいはカリフォルニア大学バークレー校に,学生選考のデータを請求してみたとしても,彼らは出したがらないだろう。

 大学入学の問題を簡単に見てきた。しかし,物事を単純化して説明すると,具体的な情報が失われてしまう。
 フランスでもアメリカでも,多くの学生が所得上位 1%の家庭から来ているが,上位10%以下の層から来る学生がいることも事実だ。
 しかし,単純化することには有意義な面もあり,フランスの大学もアメリカの大学も 共通性があることが分かる。

 教育の機会均等については,どの国も偽善的な面が多々あるということだ。
 どの国も,自らの教育制度や能力主義を誇りたがるが,外向きの謳い文句と現実が途轍もなくかけ離れていることがある。
 特にフランスでは,授業料こそ無いが,経済的に恵まれた学生が進学するエリート大学の公的予算は,一般の公立大学より高い。3倍もの税金が注ぎ込まれることもある。
 これは,まさに教育の機会均等の理念と矛盾するものだ。


 「教育と技術革新の追いかけっこの理論」を基に検討してきたが,基本となるのは教育の問題だ。
 教育と技能における需要と供給の関係は,所得格差を考える上で重要だ。
 
 長期的に見ると,
 技術革新に応じて必要な技能を得る
 教育の普及こそが,
 不平等を是正する最も重要な要素だ。

  しかし,問題はそれだけではない。


< 続く >

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