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zoom RSS どの時代も極端に集中しがちな資産所有と,近年のアメリカ労働所得の不平等

<<   作成日時 : 2015/01/19 14:28   >>

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トマ・ピケティ 『 21世紀の資本 』 第2回 (2/3)

❏ 資産分配の不平等


(図表)時代と国別にみた資本所得格差
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 資産の分配がどのような数字であるかを見てみよう。
 この表に示されているのが,資産分配のケースだ。
 上位層が,労働所得よりも大きなシェア,つまり占有率を持っていることが分かる。(図表・横列1段目 上位層10%の部分)
「中格差」 1970年代 1980年代のスカンジナビア諸国でも,50%だ。(図表・縦2列目 1970〜80年代スカンジナビア)
「中高格差」 現在のヨーロッパ諸国は60%。(図表・縦3列目 2010年ヨーロッパ)
「高格差」 アメリカは70%か,それ以上だが,これについては 後で見ることにする。(図表・縦4列目 2010年アメリカ)
 最近の研究では,アメリカの上位層の資本占有率は73%から75%に近いと言われていて,70%を超えている。

 不平等の著しいケースでは,70%の資産が上位層に集中している。(図表・横列1段目)
 しかし,既に見たいくつかの国と比べて極端とは言えない。
 こうした不平等の状態は,いつの時代にも見られることだ。

【学生・質問】
 その資産格差は,課税前のシェアか?

【ピケティ教授】
 そう。課税前だ。
 この問題を考える際に重要なことがある。
「超高格差」 どのデータでも,共通していることは,少なくとも第1次世界大戦以前の資産の集中は極端に大きかったということだ。(図表・縦列右端「超高格差1910年ヨーロッパ」 )
 上位層が資産全体の90%を占めていることも珍しくなかった。
 そのような社会では 事実上,中間層というのは存在していなかった。1910年のフランスやイギリス,その他のヨーロッパ諸国がそうだった。
 上位層が総資産の90%を占めていて,中間層は下位層と同じ極めて低いシェアだった。
 要するに中間層が存在しなかったということだ。
 中間層40%の人々も下位50%の人々と同じぐらい貧しかったということだ。

 つまり,資本の所有格差というものは極端に集中しがちで,かつてほどではないにせよ,こんにちでも労働所得の格差よりもはるかに大きい。

❏ 総所得の不平等

(図表)時代と国別に見た総所得(労働所得+資本所得)の格差
画像


 総所得の不平等について簡単に見ていこう。
 総所得とは,これまで見てきた労働所得と資本所得を合わせたものだ。
 これは多少複雑で,総所得の不平等は,労働所得,資本所得,この両者の不平等の相関関係によるものだ。この関係は,しばしば一致しないことがある。


 労働所得の高い人が,資産は僅かしか持っていない,あるいは逆に,資産はあるが労働所得が少ないケースもある。
 こうした関係によって,不平等のレヴェルも様々異なるものとなる。
「高格差」 現在のアメリカと100年前のヨーロッパ諸国は上位10%が総所得の50%を占めていた。(図表縦3列目 「高格差 2010年アメリカ 1910年ヨーロッパ)

 けれども,不平等の原因はそれぞれ全く異なる。
 こんにちのアメリカでは,労働所得の格差に不平等の原因があるのに対して,かつてのヨーロッパでは極端な資産の格差が不平等の原因だった。
 1910年のヨーロッパの労働所得の格差は,現在のアメリカほどではなかった。何と言っても,資産格差が圧倒的だった。

 不平等が高まる理由は,国によって異なる。
 労働による所得の格差も資産の格差も,両方とも強まるということもあり得るとは思うが,これまでは,そういうことはなかった。今後はどうなるか分からないけれど。

❏  それぞれの階層が,総資産のどの程度を保有しているか,具体的に把握する簡単な計算方法

 次に不平等の歴史的変化について話を進めていく。
 まずその前に説明したいことがある。
 ある人が,どの所得シェアのグループに属しているかが分かれば,その人の実際の所得が何ユーロかが簡単に算出できる方法があるということだ。

 もし最上位1%が総所得の5%を保有していた場合を考えよう。
 このグループの平均所得はいったいどのくらいになるだろうか。

 例を挙げると,あなたの平均賃金が例えば月2千ユーロの国に住んでいるとしよう。
 そこで最上位 1%が総労働所得の5%を保有すると,それは平均賃金にどのように影響するだろうか。単純な計算だ。

【学生・応答】
 1万ユーロ。

【ピケティ教授】
 そうだね。なぜかと言うと,2千ユーロの5倍だからだ。
 なぜ,2千ユーロを5倍するかと言うと,最上位1%の所得シェアが総労働所得の5%ということは,この人たちの所得は平均的な賃金の5倍だからだ。
 このグループの賃金は,社会全体の平均賃金に5を掛けたものだ。
 2,000ユーロ×5倍=10,000ユーロ
 簡単だが,とても重要な方法だ。

 資産の不平等についても同じようにして計算できる。
 現在の平均資産が20万ユーロか,それを少し下回る程度だとする。
 下位50%の人口が総資産の5%を保有しているとする。平均資産が20万ユーロだとすると,このグループの平均資産はいくらになるか。

【学生4・応答】
 2万ユーロ。

【ピケティ教授】
 そのとおり。
 平均の10分の1
 20万ユーロ×1/10倍=2万ユーロ

 下位50%の資産シェアが5%ということは,彼らの平均資産は 社会全体の平均の 10分の1ということだ。
 人口全体の平均資産が20万ユーロなので,下位50%の資産の平均は2万ユーロということになる。さすがにゼロではないわけだ。
 でもこれは飽くまで平均なので,もちろんそれより僅かしか資産がない人もいる。資産は1千ユーロだとか2千ユーロだとか。借金がある場合には資産はマイナスだとかね。 例えば住宅の形で保有している場合,その住宅が20万ユーロの価値でローンが18万ユーロあれば,純資産は2万ユーロになる。
 2万ユーロは確かにゼロではないけれど社会全体の平均資産と比べると,とても僅かだ。

 もしも最上位1%が35%の資産を持っていれば?

【学生4・応答】
 700万ユーロ。 

【ピケティ教授】
 そのとおり。
 平均資産が20万ユーロの場合,人口の1%が総資産の35%を所有していると(=(平均の35倍所有していると)
 20万ユーロ×35倍=700万ユーロ。

 このようにシェアの数字を,具体的な資産や所得の金額に当てはめてみることが重要だ。
 自分がどのくらいの所得の分配を得られる層にいるのかを知ることは,経済学者にとってだけでなく,誰にとっても意味がある。

 様々な階層が,それぞれ総資産のどの程度を保有しているか,具体的に把握することが大切だ。
 こうした単純な計算方法を使えば,保有シェアを聞くだけで,それがどの程度の所得や資産を持っているかが良く分かる。

❏ 不平等の歴史的変化についての基本的事実

 さて,これまでのところで 大枠の認識ができたと思うが,次は不平等の歴史的変化についての基本的事実に移りたいと思う。
 これについては,ヨーロッパ,日本,それとアメリカのパターンを見ていこう。
 どんなパターンかと言うと,フランスあるいはヨーロッパのいくつかの国と日本は,長期的に見て,労働所得の不平等が同じように推移した地域であったということだ。

❏ 資本所得格差が減ったため不平等が縮小した日本

(図表)最上位1%の総所得のシェア(占有率)
画像

 日本の最上位 1%の所得集中のシェアは,フランスなど 大陸ヨーロッパ諸国と同じように比較的穏やかだった。
 しかし,1980年代以降,日本の上位1%への所得集中は徐々に高まる傾向にある。

❏ 下位50%の資産所有は,依然としてゼロに近い

 20世紀に生じた全体的な不平等の縮小の大半は,資産所有の不平等が小さくなったことによるものだ。
 特に資産分配の点で,中間層に起こった大転換
がそうだ。
 そもそもこれらの国では20世紀以前には上位層が90%の資産を保有するという意味で,中間層は事実上存在しなかった。
 それが今や上位10%のシェアは60%から場合によっては50%にまで減少している。
 これは,上位層より下の特に中間層が一定の資産を保有するようになったということだ。
 下位50%は,依然としてゼロに近い。


         20世紀以前  現代
上位層(10%)  90%    50%
中間層(40%)   5%    45%
下位層(50%)   5%     5%
 

 先ほどの例で見たように,下位50%が 5%の資産を保有するということは,平均して2万ユーロの資産だが,それが5%ではなく1%となると,僅か4千ユーロの資産しか持たないことになる。

 長期的に見た資産分配の一番大きな変化は,資産のかなりの部分が上位層から中間層に移動することによって,格差が縮小したということだ。
 下位50%のシェアは,絶対的に見るとさほど増えなかったが,相対的に見れば 僅かながら増加した。しかし,そのシェアはおよそ5%ほどと,依然ごく僅かだ。
 資産格差が緩和され,最大の恩恵を被ったのは中間層だった。
 中間層は,100年前と比べて,はるかにリッチになったわけだ。
 私が考えようとした大きなテーマの1つは,中間層のシェアは今後も増大するか,あるいは減少するのか,ということだった。

 さて,かつてのアメリカは資産所有の不平等がヨーロッパほど大きくはなかった。資産については,後で触れることにして,今日は主に労働所得について見ていく。

❏ アメリカの労働所得の不平等

 19世紀のアメリカの比較的平等な資産分配は,ある意味で新天地・フロンティアがもたらしたものだ。
 誰でも少しずつの土地を持てるという状況が,平等な資産分配を実現させた。土地が数世代,数世紀にわたって大規模に世襲されたヨーロッパとは大きく異なる。
 もちろん,資産が比較的平等だったと言っても,それは白人のアメリカ人の間でのことだ。
 奴隷制度のあった時代,白人に所有されていた黒人には,もちろん当てはまらない。
 奴隷制とは,ある人々が他の人々を物のように所有することで,資本所有の極めて極端な形態だ。
 19世紀のアメリカの不平等を論じるときには,平等なアメリカと,奴隷制を持つ不平等なアメリカの,2つの側面を見る必要がある。
 今,奴隷制の問題を除外して考えても,100年前のアメリカの資産保有の規模は,当時のヨーロッパと比べて,決して大きくはなかった。
 富と所得の格差も,ヨーロッパのほうがはるかに大きかった。

 私たちフランス人は,アメリカは常にヨーロッパより不平等な国と思いがちだが,それは違う。100年前は今とは全く逆で,それには理由もあった。

 近年,労働所得の格差が,アメリカで極めて高い水準に上昇しており,特に最上位層のシェアの急増は顕著だ。
 ここで考えなければならない問題は,これがなぜ起こっているかということだ。
私も完な答えを用意しているわけではないし,完全な答えを出した人もいなかった。我々にできることは,様々な正しいと思われる仮説を提示することだ。
 確かに従来の研究はそれなりに重要なメカニズムを明らかにしてきた。けれども私は,それで十分とは思わなかったし,この問題の研究をより一層深めるべきだと思っている。

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