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zoom RSS 長期にわたる富の所有の不平等  トマ・ピケティ 『 21世紀の資本 』 第1回(3/3)

<<   作成日時 : 2015/01/14 20:22   >>

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資本所得比率βの上昇が起こると,不平等はさらに拡大する。

資産所有の不平等を規定する要因は何か。


(図表)不平等をもたらす根本的な要因

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もう1つの公式が重要な役割を果たす。
長期にわたる資産所有の不平等の重要な要因は
資本収益率 r と経済成長率 g のギャップだ。

r (資本の収益率) > g (経済成長率)
資本収益率 r と経済成長率 g の差,このギャップの問題を説明しよう。

(図表)世界の資本収益率 r と経済成長率 g

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これは,長期の資本収益率 r <黄色の線>と経済成長率 g <緑色の線>のおよその推計だ。
このグラフのとおり,人類の歴史の大半を通じて r(資本の収益率)が g(経済成長率)より大きいことが重要だから,覚えておいてほしい。
これは伝統的な世襲社会の基盤でもあり,過去の社会が経験してきたことでもある。およその資本収益率 r が4〜5%という社会だ。ジェイン・オースティンやバルザックを読んだ人なら分かると思うが,資本収益だけで年間1千ポンドを得るためには収益率を5%とすると,2万ポンドの資産が必要だ。
このことは,その資産が土地であれ不動産であれ金融資産であれ,当時の読者にとっては小説で一々説明されなくても分かる当たり前のことだった。
2万ポンドは,年間1千ポンドの稼ぎになるという共通認識が,ある意味で社会基盤になっていた。
バルザックやオースティンが r (資本収益率)が g (経済成長率)より大きいと説明したわけではないよ。けれども彼らには分かりきっていたことだ。
g はゼロに近い。
だから経済は,世代が変わってもあまり変わらない。
そこへ持ってきて,資本収益率が4〜5%だ。そうなると資産の所有者は,その資産で裕福な暮らしを送りながら様々な活動を行なう余裕を持てるんだ。


重要な結論は,いわゆる技術革新は一般に考えられているほど社会構造を変化させなかったということだ。
確かに経済成長率 g は上昇し,資本収益率 r とのギャップは縮まったが,それは一時的なもので,人口増加と戦後の復興が,ギャップを縮めた要因だった。


19世紀の成長率を見ると,この時代に沢山のイノヴェイションが起こった。<図のピンク色の帯の部分>
ベル・エポクの時代,自動車や電気などが発明された。
ラジオの発明も,こんにちのフェイス・ブックと同じくらい画期的だった。
にもかかわらず成長率は1.5%だ。
資本収益率 r とのギャップは,産業革命以前の頃とほぼ同じだった。

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現代の技術革新によっても,上位層への富(資産)の集中が変わらなかった理由の1つが,r (資本収益率)が g (経済成長率)より大きいことにあると,私は考えている。 

重要なことは,20世紀の人口増加が経済成長率 g の半分以上を生み出したということだ。
だが,国連などの推計によれば 人口は減少傾向にある。 20世紀とは状況が異なり,人口増加率は減っていくからだ。
長期的なスパンで見ると,資本収益率 r は人口増加率ほど変動は大きくなく,
格差は維持されると予想
している。
しかし,資産ごとに大きな変動が予想されるが,大まかな推計に過ぎない。

締め括りに,あるデータを見てもらおう。
金融市場の規制緩和は,不平等を拡大する要因だ。

私たちは,一定の資本収益率 r を想定しているが,実際,資本の市場はそんな単純なものではなく,収益率には幅がある。

極端な例が,アメリカの大学の基金の運用実績だ。ハーヴァード,イエール,プリンストン大学といった大きな基金を持つ大学と,小さな規模の大学を比較したものだ。
(図表)アメリカの大学基金の収益率

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基金のマネジメント料を差し引いた,およその資本収益率 r の表だ。
およその資本収益率 r は6〜10%と様々だ。
しかし,君たちが銀行に10万ユーロ預金しても,そんな高い収益率は得られない。
経済学の教科書的なモデルによれば,資本市場が完全に機能していれば,皆,等しく同じように収益が得られるはずだ。
君たちが銀行に10万ユーロ預金すれば,それがすぐに地球の裏側に回って中国に投資され,資本に応じた収益が得られるだろう。これは飽くまで経済理論の上での話だけれど。
現実の世界は,そのようには動いてはいない。
現実はどうかと言うと,10万ユーロ銀行に持って行っても,インフレで目減りし,金利は1%とか,せいぜい3%だ。
それと比べて,この人たちの収益率はとても高い。
何故こうなるのか。
彼らが投資するのはデリヴァティヴやサブ・プライム・ローンのように複雑な金融商品だ。それに,資金の運用には,規模の効果も付き物だ。
ハーヴァードの基金は1億ドルだが,その管理費に0.3% つまり30万〜40万ドルの大金を注ぎ込んでいる。1億ドルの基金があれば,資産運用に長けたマネージャーも雇える。おかげで収益率が6〜10%になるなら,安いものだ。
うちのパリ経済学校には1億ドルなんて基金はないし,何万ドルも資産運用に支払うこともできない。
君たちが10万ユーロ持っていて,親戚か誰かに投資のアドヴァイスを仰いだところで,大してうまくいかないだろう。

金融市場の規制緩和は,金融収益の格差を拡大したと思うし,今日の資産格差を生み出した理由の1つだと私は思っている。

こうした動きを規制するには,どうしたらいいのか。
私は,将来のために結論を導き出したが,何よりも大事なのは,飽くまで過去の分析にあるということだ。
過去を振り返れば,それぞれの国がそれぞれの解決策で,資産不平等の規制に取り組むことができる。そう考えた。

それは,富裕層の所得と資産に対する累進的な課税制度だ。
そのためには,所得と資産の情報公開が必要になる。
税率は,状況に合わせて調整すれば良い。
理想的な解決策は,国際協調を強め,国境を越えた金融資産の取引きの情報を集めることだ。

これは,ある程度始まっている。
スイス銀行の秘密を開示させ,タックス・ヘイヴンへの資本の逃避を防ぐ試みも始まった。どの程度の段階まで進むかは分からないけれども。

強調しておきたいのは,課税の歴史は驚くべき事実に満ちているということだ。
このグラフは,「所得税の歴史」とも言える最高税率の推移を表したものだ。

(図表)所得税の最高税率

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所得が最も高い層の最高税率で,最上位層の富裕層に適用されたものだ。
時代によって大きな変動があったことがうかがえる。
100年前の1914年には,所得税はなかったか,あっても税率はごく僅かだった。
その後,世界大戦を経て,アメリカとイギリスの上位所得層への税率は,80〜90%に上がったのだ(1950年前後)。
しかし,1980年代のレーガノミクスで税率は大幅に引き下げられた。

税制の歴史はまさに紆余曲折の連続で,その当時の人びとの不平等に対する認識に大きく左右される。
2011年のウォール街での運動のように,世界大戦当時のアメリカでも,経済的格差への強い抵抗運動があったために,累進性の強い所得税や相続税が導入された。


(図表)相続税の最高税率英・米・独・仏

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相続についても極めて高い税率が適用されたことが分かる。
アメリカとイギリスは,フランスとドイツ以上だ。
ドイツの1946年から1948年にかけての最高税率に注目してみよう。
この時期が,所得税を含めドイツの税率が一番高かった時期だ。
ドイツの税制は1946年から1948年に連合軍の占領時にアメリカが作ったものだ。
戦後唯一,累進性が強化されたのが,この時期で,それは他でもなくアメリカによって導入されたものだ。何もアメリカがドイツに罰を与えたかったわけではない。
当時のアメリカの見解では,民主化政策の一環だった。彼らが信じる民主制度を導入し,所得上位層への富の集中を防ぐ税制としたわけだ。

若い君たちは奇妙に感じるかも知れないが,これは歴史的事実だ。
将来,別の解決策もあり得るし,課税よりも強硬な手段を講じて,様々な国で富の再分配が議論されるだろう。
将来何が起きようと,所得と富,不平等と課税への取り組みの歴史についての認識を持つことが大切だ。


学生3 (質問)
「21世紀の資本」と言うのであれば,アフリカなど貧しい国々の問題も見なければならないと思うが,21世紀はアフリカの世紀だ。資本は確かに少ないが,不平等の問題は深刻だ。最も裕福な人たちが資本の大半を所有していると思う。

ピケティ教授
まったくそのとおりだ。
私たちは今まさに,世界最高所得データベースに,より多くの国を取り込もうとしている。
幸い,この本を出版してから,多くの国の政府が納税記録などのデータをこれまで以上に見せてくれるようになった。
韓国や台湾も,今では入手可能だ。ブラジル政府も データの開示に前向きだ。メキシコにも一昨日までいたが,近々納税記録を見ることができそうだ。
このようにデータの開示を広げていくことが,私たちのプロジェクトの目的の1つだ。
データは,不平等を測るのに不可欠だ。

ブラジルの例を見よう。これは,家計調査のデータに基づくもので,家計調査(オレンジ色の線)は自主申告だ。
納税記録(緑色の線),こちらは最近開示されたものだ。
納税記録で見ると,不平等のレヴェルが上昇していることが分かる。

(図表)ブラジルの上位層10%の所得シェア 2006〜2012年

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そして中国の場合だが,中国は所得税制がありながら,所得税の統計がない世界で唯一の国だ。
途上国は先進国にも増して不平等の問題が深刻だから,情報開示が重要だ。
腐敗と戦おうにも,たまに何人かの有力者を捕まえるだけでは,解決にならない。
不平等の問題は,先進国にも増して,途上国で重要なので,将来的には,できるだけ多くの途上国や新興国に我々の研究を拡張していきたいと思っている。

学生4 (質問)
先生の本に対するコメントや書評が沢山書かれている。それを集めると先生の本よりも分厚くなりそうだが,他の経済学者や研究者との議論で,何か興味深い意見はあったか。

ピケティ教授
いろんな国を回って意見交換などをした経験から,興味深いことを沢山学べた。中国やブラジル,最近ではメキシコやトルコなど。それぞれ不平等の問題に取り組んでいて,新たに知るところが沢山あった。
ラテン・アメリカの国々を訪れて面白いと思ったのは,その国の人たちの反応だ。
エリート層の人たちは,相続税や資産に対する累進課税制度を導入するなど「とんでもない」と反発する。ブラジルの相続税は,僅か4%だ。彼らは私にこう言った「4%以上になれば,経済成長など無くなる」とね。
でもそれは,まったく逆の話だ。
貧困層は,高い電気料金の上に 高い消費税まで払い,重税をかけられている。
その一方で親から億単位の資産を相続する者には,4%しか課税しない。
本来逆であるべきなのに,彼らは「お前の言うことは,ユートピアだ」と私を批判する。
アメリカ,ドイツ,イギリスなど 多くの先進国では,相続税は 最高税率で40%というのが普通だ。
特に左翼的な政権だからというわけではない。キャメロンだって,メルケルだって,相続税を4%にしろとは言わないだろう。
残念ながら時間だ。沢山の質問,ありがとう。

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