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zoom RSS 不平等の拡大:資本主義の基本法則  トマ・ピケティ 『21世紀の資本』 第1回(2/3)

<<   作成日時 : 2015/01/14 01:56   >>

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さて,所得格差も重要だが,それと並んで,資産(富)の格差も重要なテーマだ。
資産所有の格差は,所得の格差よりも大きいと説明したが,100年前と比べて 現在の大きな特徴は,かなりの資産を持った中間層が存在することだ。
かつては所得上位層10%だけで社会全体の資産の90%を占め,中間層40%と 下位層50%はそれぞれ 5%ずつ保有するという有様で,中間層も貧困だった。 中間層が存在する余地はなく,持つ者と持たざる者の差は歴然だった。

時代ごとの資産(富)の格差
        ヨーロッパ  ヨーロッパ  アメリカ
         (1910)   (2010)    (2010)
上位層(10%) 90%    60%    70%
中間層(40%)  5%    35%    25%
下位層(50%) 5%    5%     5%

現在は,かなり違う。
資産(富)の蓄積は極めて大規模で,上位層10%はヨーロッパでは約60%の資産,アメリカでは約70%の資産を占め,中間層は20〜30%の資産を保有する。
下位層50%は,相変わらずほとんど何も持っていない。


銀行口座に 1千ユーロ持つ人もいれば,預金ゼロの人もいる。 借金つまりマイナス資産の人もいる。10万ユーロのアパートを所有する人もいれば,10万ユーロの借金を抱える人もいる。
下位層50%にとっては,資産(富)と言われてもピンとこない。
手元にあるのは1〜2か月分,あるいはせいぜい給料の半年分で,貯蓄もほとんどない。
下位層50%と上位層10%の間を占める中間層40%は,かつて本当に貧しかったが,今は国の総資産の20〜30%を保有している。
この中間層は自分の家やアパート,さらには生命保険などかなりの金融資産を持っている。
中間層の台頭は大きな変化だったが,私が特に注目するのは,中間層は拡大しつつあるのか,それとも縮小しているのかということだ。

アメリカではこの数十年間,中間層の資産(富)のシェアが縮小する傾向が見られる。
上位層10%のシェアが60〜70%へと拡大したことで,中間層のシェアが 30%から20%へと減ったからだ。
100年前のヨーロッパの水準にはまだ遠いが,長期的にはどんな方向に向かうのか。それが問題だ。
この問題に答えるためには,総資産そのものの変化と 資産(富)分配の不平等の変化,その両方を区別して考える必要がある。

もう1つ,大事なグラフがある。
さっきのグラフと少し似ていてU字型をしているが,不平等の指数ではなく,総資産の割合を示したものだ。

(図表)ヨーロッパの資本所得比率
画像


これは私が資本所得比率と呼ぶもので,ドイツ,フランス,イギリスの3か国のものだ。

資本所得比率とは,
資産総額が国民所得の何年分に相当するか
という比率
だ。

資本所得比率(β)=総資産÷毎年の総所得


その比率βが6ということは,平均資産が平均所得の6年分だということ。
現在の資本所得比率は,大まかに言うとこの水準だ。
例えば,1人当たり国民所得の平均が 3万〜3万5千ユーロだとすれば,1人当たりの平均資産額は約20万ユーロだ。
この数字は大きいと思うかもしれないが,19世紀はさらに大きく700%に及ぶ。

資本所得比率という言葉だが,私は資本と資産という言葉を,同じ意味で用いている。
それには,民間の個人が保有するあらゆる資産が含まれるし,政府の資産も含まれる。
不動産・法人資産・金融資産,債務・すべての負債も含まれる。
現在,資産の総額は,極めて高い水準にある。


18世紀や19世紀は世襲社会で,実は,国内総生産あるいは国民所得に対する資産総額の割合が,極めて高かった。
それは文学の世界にも表れていて,バルザックやプルースト,ジェイン・オースティンなどの小説の中では頻繁に資産相続の問題が出てくる。
それは,小説家が資産の話に熱くなり易いわけではなく,社会全体が資産や相続をめぐって動いていたということだ。

第1次世界大戦(1914―1918)と大恐慌(1929。1930年代) そして第2次大戦(1939―1945)を経て,資産価値は大幅に減少した。
特に資産の破壊が酷かったのは,ドイツと日本だ。イギリスは空爆の影響は大きかったが,戦争による資産破壊は限定的だ。フランスはイギリスより打撃を受けたが,それでも資産破壊はさほどでもなかった。
資産破壊とは,物理的な破壊だけを意味しない。
戦争中は民間投資が制限されたため,民間貯蓄の大部分が戦費に向けられた。
イギリス,フランス,ドイツ,日本いずれの国も,家計貯蓄が戦時公債の購入に向かい,戦費として消費され,残った資産も戦争で破壊された。
ヨーロッパでも日本でも,資産が損なわれた。
戦争末期,公債発行残高は急増したが,インフレで物価が急上昇したため,公債は紙切れ同然となった。
ドイツとフランスでは1945年に政府の債務がGDPの200%まで膨らんだが,1950年には 10%まで減少。
ドイツとフランスが債務を返済したからではなく,インフレで債務が実質的に縮小したのだ。
この2つの国が金融危機にあえぐ南ヨーロッパの国々に債務の返済を迫っているのは皮肉と言うしかないが,インフレで債務を帳消しにするのは,当時としてはやむを得ない選択をしたわけだ。
いずれにせよ,民間の資産を大幅に減少させた一方で,財政赤字は解消した。

資本所得比率の大幅な上昇は,不動産市場や株価市場での資産価格の高騰,さらには貯蓄と資産貯蓄の増加など,複合的な理由で起きたものだ。

資産所得比率が上昇するプロセスを理解するために,単純な経済法則を私が考えた。
資産の所得に対する比率すなわち資本所得比率をβとする。
その動きは,先ほど見たグラフにあったとおりだ。 法則は2つあって,この資本所得比率βが,利潤シェアαつまり国民所得に占める資本収益の割合と関連するというものだ。

画像


■ 資本主義の第1基本法則
 α=r×β

α 国民所得に占める資本(収益)の割合
  資本の収益率 (r:return )
β 資本所得比率 (国民所得1年分に対してどれだけの割合か)

例えば
β(資本所得比率)が600% つまり国民所得6年分を資産を持っている
r(資本収益率)が年に 5%だとする
α(利潤シェア)=5%×600%=30%
画像

これが意味するのは,国民所得の30%が,資本による収益が占めているということ。
極めて重要な法則で,α,β,r の3つが関連している。
実際には,α,β,r は複雑な要素が入る。
それは,テクノロジーの水準や労働者の雇用環境,制度や政策,個人の貯蓄量などで決まる。


■ 資本主義の第2基本法則
 β=s/g

β 資本所得比率
  貯蓄率
  経済成長率

資本所得比率 β は,
貯蓄率 sが高くなるに連れて上昇する。

2倍貯蓄すれば,資産も2倍になるよという,それだけのことだ。 しかし,これには経済がどれだけの割合で成長するかということも係わってくる。

経済成長率 g は,
人口増加率と生産性の増加率という2つの要因で決まる。


長期のスパンで経済成長率 g を見ると,とても低い数字だった。
確かに戦後のヨーロッパや日本の成長率はたいへん高く,日本など5%どころではない高い成長率を見せた。
こんにちでも中国は5%以上だ。
こうした高い成長率は,戦争からの復興や途上国が先進国にキャッチアップする時期に起こる特殊な現象だ。

産業革命の時代から 現在までの 300年間の経済成長率 g の毎年の平均は,
わずか1.6%だ。

こんな小さい数字だと,フランスであろうとどこであろうとハッピーな生活は望めない。
残念ながら,私たちが馴染んできた5%という成長率は,歴史的に見れば 極めて特殊な時期の例外的な成長率だ。
過去300年の世界経済の成長率の毎年の平均は,1.6%だ。
人口がその間に0.8%の増加率で増えたから,1人当たりの平均成長率は 0.8%だ。 後の0.8%は,生産性の改善でもたらされたものだ。

18世紀から現在まで,わずか0.8%の成長率が300年続く間,人口は6億人から70億人に増加した。
今後はどうか。今70億人の人口が300年後700億人になるだろうか。そんなことはないだろうし,環境面から見ても 好ましくなさそうだ。
もしもクリーンな技術が開発され 環境に負荷のない経済成長が実現しても700億人になることはないだろう。 すでに日本やヨーロッパのいくつかの国では,少子化による人口減少が起きている。

長期の生産性の増加率は0.8%だと説明したが,これは今後も続くと考えられる。それには新たなエネルギー源が必要だ。
それでも経済成長率は0.8%から,せいぜい2%ほどで,かつてのような5%には及ばないだろう。
こんなに成長率が低いと,資本所得比率βが上昇するという問題が出てくる。

(図表)資本主義の 第2基本法則

画像


この資本主義の法則で貯蓄率が維持されたとすると,g(経済成長率)が ゼロに近づくにつれて β(資本所得比率) は無限に上昇することが分かる。
g(経済成長率)がゼロというのは極端だが,そのような場合に 貯蓄を毎年続け,それが投資されれば資産(富)は,無限に蓄積される。
もちろんそれはどこかで止まるだろうけれど。
資本所得比率βの上昇それ自体が悪いわけではない。
資産(富)が破壊されて資本所得比率βが小さかった1950年代を懐かしく思う必要もない。
もし資産(富)が平等に分配されて,皆が ちゃんとした年金資産や不動産,あるいは企業の株などを 等しく保有しているような社会であれば,まったく問題はない。
資本所得比率βの上昇は自然なことだし,皆が均等に資産を持つということは悪いことではないから。

問題は,資産(富)の分配が不平等だということだ。
例えば老後の年金資産でも,その保有額には大きな格差がある。資産を多く持つ中間層を説明したが,下位層50%は事実上資産(富)がなく,正確に言えばたった5%だ。
上位層10%は労働所得のシェアよりも 資産のシェアが高い。


老後年金資産保有額

        ヨーロッパ アメリカ
所得の上位層  60%  70%
所得の中間層  35%   25%
所得の下位層   5%   5%

資本所得比率βが上昇すると相続などを通じて,不平等が拡大する。
私は1970年生まれだから70年代世代にシンパシーがあるが,80年代90年代の世代はなおさらで,若い世代になるほど相続が重要になってくる。
逆に50年代60年代生まれの世代は,あまり相続するものなかったと言える。 相続すべきものは戦争で破壊されていたからだ。
しかし,経済成長率が高かったので,自分たちで稼いで資産(富)を蓄積することができた。
でも,70年代以降の世代は相続する資産がなければ,自分で稼ぐ所得だけでパリや東京で家を買うなど,到底できない。厳しい住宅事情は皆も周知していると思うが,よほど稼ぎが良くないと家を買うことは難しい。
今は,家族の資産が重要な時代に舞い戻りつつある。

資本所得比率βの上昇が起こると,不平等はさらに拡大する。


< 続く >

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