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zoom RSS 労働所得の高い不平等化 トマ・ピケティ 『21世紀の資本』 第1回(1/3)

<<   作成日時 : 2015/01/13 19:42   >>

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トマ ・ ピケティ 『21世紀の資本』

経済格差の科学的実証
過去300年間の世界各国の税務記録のデータ収集に基づき
「所得と富の格差」「資本主義の法則」を科学的に実証

<拡大する貧富の差。富が富を生み,格差が格差を生む現代の資本主義。不平等の問題に教授が切り込む>
Thomas PIKETTY トマ・ピケティ教授
École d’économie de Paris(パリ経済学校)創立2006年 初代校長
300年にわたる世界各国の税務記録を収集し,その膨大なデータを基に所得と富(資産)の格差や,資本主義の法則を明らかにしようとした。

2011年 アメリカ ウォール街 抗議運動“ We are the 99%” の理論的支柱となったレポート。「所得の上位層1%が,国全体の総所得の4分の1を占有している。」

ピケティ教授 【講義】
上位層10%の年収は10万〜40万ドルで,アメリカの大学の経済学者も これくらい稼いでいる。経済学者が自分の稼ぎが良いからアメリカ経済も順風満帆と本気で考えるなら困ったものだ。
格差を克服する方法をそれぞれの国が歴史の中から見つけられるはずだ。

ピケティ教授 【インタヴュ】
経済のことは良く分からないと済ませてしまうのは安易すぎる。
自分の意見を持つべきだ。
経済の問題を,他人任せにしてはいけない。
日本は国際的な視点からすると,きわめて興味深いケースだ。
所得や富の分配の問題は,日本で将来,もっと深刻になるだろう。

将来のために自分の考えを深め,多少の時間を費やしても,この講義に耳を傾けてもらう価値はあると思う。

ピケティ教授 【講義】
『21世紀の資本』 は所得と富の分配に関する問題を扱った本だが,今日は,その中で私が考えたこと,得た結論について講義したい。
そもそも私がこの本を書いた動機は,所得と富(資産)の分配は,経済学や政治経済学の極めて重要なテーマだ。
トマス・マルサス(1766―1844)や,デイヴッド・リカード(1772―1823),カール・マルクス(1818―1883)といった19世紀の著名な経済学者は,誰もがこの問題を最も重視してきた。
でも,彼らの時代には,これを論じるためのデータが十分ではなかった。
経済学者たちが 所得の不平等についてのデータを集め始めるのは,20世紀に入ってからだ。
初めてアメリカの国民所得統計を活用したのはアメリカの経済学者サイモン・クズネッツ(1901〜1985)だ。
彼は第1次世界大戦以来の国民所得GDP(国内総生産)の時系列データを収集して,不平等の歴史的推移について整合性の取れた方法で計測した初めての経済学者だった。
アメリカには1913年に所得税制が創設され,それ以来の納税申告の記録が保管されていた。
この記録から,クズネッツは1913年から1950年代までの時期に所得不平等が縮小していることを発見した。クズネッツ曲線とは「所得の不平等は,資本主義経済の発展の初期段階でいったん拡大するが,やがて自然に縮小する」というものだ。
このクズネッツ曲線には,いくつもの問題がある。
まず,彼の本を読めば,クズネッツ自身が,アメリカのこの時期の不平等の縮小を必然的なものと考えていなかったことが分かる。
1950年代,1960年代という冷戦の最中だったし,人びとは資本主義のハッピー・エンドを信じたかった。彼らは,戦後独立した貧しい途上国に向かって「共産主義ではなく資本主義の道を進めば,経済成長と平等を実現する経済が訪れる」そう言いたかった。

私には,トニー・アトキンソン(英・経済学者),エマニュエル・サエズ(仏・経済学者)など多くの研究仲間がいる。彼らと行なった研究プロジェクトは,クズネッツの作業をより大規模にしたものだ。かつての研究者が行なった調査の延長にすぎないことを理解しておくことは重要だ。
私たちの研究が可能になったのは,情報技術が発展し 大規模なデータ収集が容易になったからでもある。クズネッツの時代は皆,手作業だったから。 今は簡単に膨大なデータを集めて集計できる。10年前や20年前の研究と比べても私たちは格段に有利な状況にある。

こうした研究が最近まで行なわれなかった理由は,テーマ自体が経済学者にとっては歴史的過ぎ,歴史学者にとっては経済的過ぎたということだ。分野の垣根が邪魔して,誰もデータを集めようとしなかった。
研究プロジェクトの作業をとおして言いたいのは,所得と富の分配の研究は,単に経済学の問題に限定されないということだ。それは,歴史の発展や制度の変化,社会政策の問題であり,文化的な問題でもある。
人びとの不平等に対する考えを,政策論議だけではなく,文学の領域でも論じたのは,そのためだ。
金銭の問題が人びとの暮らしに与える影響を文学ほど強く表現するものはないと私は考えている。実際,私がずっと思い悩んできた問題の1つは,文学から得たものだ。

その1つは,オノレ・ド・バルザック(1799〜1850)の小説で,彼の小説には金持ちになろうとする人が沢山出てくる。『ゴリオ爺さん』という作品では,有名な,ヴォートラン(ラスティニヤックの友人で皮肉屋)と,ラスティニヤック(法曹家志望の有望な学生)の会話というのがある。
舞台は1820年のパリだが,2014年のパリや東京に置き換えてもいい。
ヴォートランはラスティニヤックに「金持ちになって それなりの暮らしをしたいなら,勉強して弁護士になっても無駄。良い暮らしを望むなら,金持ちの女を見つけて結婚することだ」と教える。
ヴォートランはラスティニヤックに若い女性を紹介する。さして美しくもなく利口でもないが,彼女には資産がある。結婚すれば,ラスティニヤックは法律家になっても望めないほどの豊かな生活を得ることができると。
この皮肉屋の意見が,19世紀社会の現実を表したものかどうかは私は分からなかった。借金まみれだったバルザック自身の,金に対する妄想ではないのか。
もし当時の世相を反映していたなら,その通念はどう変化したのか。

労働所得(働いて稼ぐ所得)と相続する富(資産)のどちらが重要か。

現代は,かつてのように世襲財産が労働所得よりも尊ばれる社会に戻りつつあるのか。19世紀と同じようなものになるのか。19世紀と20世紀の中間のようなものなのか。
20世紀には,2つの大戦のショックで世襲の財産は激減し,1950〜1960年代に,ごく僅かとなった。
現在それが,かつての状況に戻りつつあるのではないか。

これが私の抱いた問いであり,文学から得られたものだった。

学生1(質問)
『21世紀の資本』 というタイトルは,マルクスの『資本論』 を意識してつけられたのではと思うが,先生の研究はマルクスの思想と繋がっているのか。

ピケティ教授
とても広い意味で繋がっている。
1つは分配の研究。その長期的な発展を経済学の中心に据え直そうという意味で『21世紀の資本』 はマルクスとリンクしている。
しかし,マルクスの本とかなり異なる内容だ。
私の本は,マルクスの『資本論』よりは,よっぽど読み易いんじゃないかな。
マルクスが本を書いた当時はデータがほとんどなかったから,とても理論的だし 概念的だ。
21世紀は,情報技術とビッグ・データの時代だから,資本と不平等の研究を,現代の視点で捉えたかった。
私が用いるデータについて補足すると,先進国だけでなく途上国のデータも網羅しようと考えた。


(図表)世界の所得データベース
赤色:データ収集済みの国,青色:データ収集を始めた国

画像


既にデータベースにある例えばアメリカは,不平等著しい国で,近年ますますその度合いが高まっている。これは2011年9月の“ウォール街を占拠せよ”という運動の背景にもなった。説明できる人はいるかな。

学生2(応答)
ウォール街の最もリッチなトップ1%の人びとから,残りの99%のあまり裕福ではない人たちがお金を取り戻そうという運動。

ピケティ教授
なぜ,それがウォール街で起きたのか。

学生2(応答)
政府が金融機関にお金を注ぎ込んだからではないか。政府が何十億ドルという巨額なお金を使って,ウォール街の金融機関を再生させたからではないか。

ピケティ教授
そのとおり。
政府が銀行業界救済のために巨額の公的資金を注ぎ込んだ。
そこで,一般市民は不満を抱いた。
金融業界にいる所得上位層1%の人の報酬は,金融危機が起きる前も凄く高かったから,なおさらだった。
金融危機は,金融の規制緩和と巨額のボーナス支払いの結果,起きたにもかかわらず,ごく一部の人びとが依然としてパイの大部分の分け前にありついている。
不祥事を起こした当の金融業界の救済に国民の税金を充てるということは,その連中の所得を下支えすることになるわけだし,国民の怒りは収まらない。
この運動は,ブリュッセルではなく,パリでもなく,東京でもなく,アメリカのウォール街で起きた。つまり,社会のトップ1%への所得集中が特に大きいアメリカが震源地となったのが,重要なポイントだ。

(図表)アメリカの上位層10%の所得シェア(1910〜2010)
画像

アメリカのグラフを見ると,上位層10%の所得シェアを見ると,上位層の所得が増加していることが分かる。
これと同じように他の国を見た場合,ヨーロッパや日本の上位層所得層のシェアは,それほど上がっていない。つまり,アメリカは群を抜いて上位層の所得上昇が顕著だ。
このグラフは上位層10%の所得シェアだが,そのうちの最も大きい部分を上位層1%の人びとが得ている。その下の残り9%の人びとの所得上昇は,それほどでもない。
だから,上位層10%のシェアの大部分は最上位層1%が占めていると言える。
所得の規模で言うと
上位層10%とは,年収 10万ドル以上。
上位層1%とは,年収 40万ドル以上だ。
なかには年収100万ドルや200万ドルの人もいて,この層の所得シェアを押し上げている。
年収10万〜40万ドルとは,アメリカの大学で経済学を教える教授の年収レヴェルで,結構いい額だよね。
ところが彼らの所得シェアは,それほど大きくはない。
年収40万ドル以上あるいは100万ドル以上稼ぐ者たちがいる。上には上がいる。そういうものだ。

不平等の低下というものは,自然に起きたわけでは,決してない。
それは,大恐慌と第2次世界大戦という特殊な状況から起きた現象だ

そして暫らくその状態は続く。
しかしその後,不平等は,再び上昇する。
では,質問だ。アメリカの最上位層1%が,国の総所得のどの程度を占めているか?
上位層 1%は,現在,アメリカ総所得の約25%を占めている。
1970年代は,上位層 1%のシェアは約7%だったから,今は15〜20%増加している。

では,労働の対価として得る所得でなく,資産のシェアだが,上位層10%の資産の占有率つまり資産シェアは,どれくらいか?
上位層10%の資産シェアつまり資産の占有率は,歴史的には最大で90%だった。今のアメリカでおよそ70%ほどだ。

資産所有の不平等は,所得の不平等よりはるかに大きいことが分かる。

所得上位層10%のシェアは,この期間3分の1から2分の1まで上昇したが,資産は60〜90%にまで上昇した。
富の分配が最も平等なスウェーデンでさえ,現在60%だ。


ベル・エポク つまり19世紀末から第1次世界大戦前の華やかな時代のフランスやイギリス,スウェーデンでは,上位層 10%の資産シェア つまり資産の占有率は,90%もあった。

今の状況がかつてと違うのは,特にアメリカなどでは金融機関の役員報酬のように,上位層の労働所得の割合がかつてより大きく,その所得が積み重なって資産(富)の格差が生まれていることだ。

私は,所得階層を便宜的に3つに分けている。
 10% 上位層
 40% 中間層
 50% 下位層

一応の区分だが,これによって歴史的な比較ができる。 この区分で,社会階層を考察することが目的だ。
所得階層を3つに分けるという手法がなければ, 2007年と1928年とを比較することは,難しい。
ベル・エポクの頃とフランス革命以前のアンシャン・レジーム( 「旧体制」 18世紀以前のフランス封建制度下の政治・社会・経済支配体制 )のヨーロッパといった,異なる時代や国を比較するのに,この区分は役に立つ。

当時フランスでは全人口に対する貴族の割合は,どれくらいか?
人口の1〜1.5%だ。
割合としては少ない。しかし,1%でも社会を構成するには十分だった。
たとえ1%と言っても,今,人口3億人のアメリカでは300万人にも相当する。とても大きなグループだ。
この300万人が,所得や富の多くを手にしている。
しかし,フランス革命以前のアンシャン・レジームの 1%は,それ以上の富を所有していた。
今のアメリカの高水準の不平等は,ヨーロッパ19世紀の世襲型の社会に 逆戻りしつつあるかのようだ。
アメリカの格差拡大の要因に,大企業や金融機関などの役員や重役報酬の 驚くべき上昇がある。
つまり,労働所得が高いレヴェルで不平等化している。
こうなる理由として,技能や教育の格差が挙げられる。
アメリカには良い大学が沢山あり,所得上位層はそうした大学に容易にアクセスできるが,大多数の人びとは,特に下位層50%の人びとは高卒が やっとで,大卒と言ってもハーヴァードのような立派なところではないという事情は確かにあるだろう。
教育や技能を得る機会の不平等は,アメリカ全体の変化の大きな部分を説明できるかもしれない。
労働所得の低下は,よくグローバリゼイションのせいにされるが「中国が世界市場に参入してアメリカの非熟練労働者の賃金が下がった」という説明に,説得力はない。グローバリゼイションは,アメリカ固有の現象ではなく世界中で起きていることだから。
アメリカの格差拡大は,日本やヨーロッパ諸国と比べても,突出している。 だから,少し違った説明が必要だ。国によっては,熟練労働の供給が需要に追い付かない。 本来アメリカでは,もっと熟練労働の供給が求められている。

不平等を緩和するためには,教育と職業訓練が必要だ。
少数のエリートだけなく,どんな階層も等しく教育を受けることができる包括的な制度が必要だ。
これは,私が歴史の研究を通じて得た重要な結論だ。

< 続く >

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